同人用語の基礎知識

モンスターペアレント/ モンペ

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先生! なんでうちの〇〇が映ってる時間がこんなに短いんですか! 「モンペ」

 「モンスターペアレント」(モンスターペアレンツ/ Monster Parent) あるいはその略語である 「モンペ」「モンペア」 とは、自分の子供が通う学校やその上部団体の教育委員会などに対し、あまりに自分勝手・自己中心的 で理不尽な要求や常軌を逸した執拗な苦情・抗議・暴言などを行う、まるで モンスター (怪物) のように面倒で迷惑な親・保護者のことです。 その子は 「モンスターチルドレン」 と呼ぶこともあります。

 これが転じて 同人 の世界では、自分の好きな キャラ やタレント、推しうちの子) の作品内での扱いが悪かったりすると、まるでそのキャラやタレントの親・保護者かのような立場・口ぶりで苦情を言い募る人を 「モンペ」 と呼ぶようになっています。 好意的・ポジティブ に見れば、それ以前から使われていた極度の 「親バカ」「過保護」 のような ニュアンス ですね。

 もっぱらアイドルや アニメゲーム に対する熱心で カロリー が高めの ファン、とくに 腐女子 と呼ばれるような人たちが集まるコミュニティでこの言葉が使われがちなため、ある種の腐女子用語ともなっています。 とはいえモンペが社会問題化して 概念 や言葉が広まると使い勝手が良い言葉でもあるので、単なる冗談として、広い意味の おたく用語ネットスラング としても使われ、また認識されている場合もあるようです。

本来の 「モンスターペアレント」「モンペ」 とは?

 自分の子供に対して非常識なほど最優先で周囲を振り回す親、あるいは 「うちの子に限って」 のように子供を絶対視し子供の敵は全て悪といった病的な親バカの存在はもちろん昔からありました。 しかし1960年代の 「学園紛争」、1970年代末から1980年代はじめにかけての 「校内暴力」 の頃に子供や学生だった人たち、しばしば粗暴で独善的、かつ学校や教師などに強い不信感を持つこの世代が親となりその子が小学生になる1990年代後半頃から、こうした 「理不尽な要求」「常軌を逸した執拗な抗議や糾弾」 を行う親が増えたと訴える教育関係者や評論家は少なくありません。

 また教員数の削減、学校における業務内容の拡大・複雑化などにより、教員一人一人の余裕が失われ、以前であれば対応できたような トラブル でも、手が回らなくなっている現状もあるでしょう。 教員も人間ですから、仕事が忙しく精神的に追いつめられると、きめ細かな対応が無理になることだってあります。 結果、モンペ対応に振り回され本来業務に支障が生じたり、精神的に追い込まれ心を病むようなことも起きるでしょう。

 学校とそこに通う子供やその親とがトラブルになった際は、おおむね大手メディアなどは子供や親の立場に立って学校や教師側を批判しがちです。 「公の組織と個人」「行き過ぎた管理教育」「わけの分からない校則」 など学校に対して批判的に見るべき理由や事柄が多いこともありますが、モンペと呼ばれるような人の多くが外面は比較的良くしばしば気の毒な弱者・被害者を装い悪質な実態は対応した学校や教師にしか分からないこと、さらに学校や教師は事なかれ主義やトラブルなどの情報開示には消極的・隠蔽体質になりがちで外に情報が出にくいこともあり、あまり親の問題は表面化せず大きな社会的問題とはなっていませんでした。

「クレーマー」 の認知度が高まり、「モンスター〇〇」 という名前が次々に登場

 1999年に東芝クレーマー事件が発生。 この事件に関しては 「クレーマーによるクレームではなく、ネット を使った正当な告発だ」 など好意的な評価もありますが、ともあれ告発サイトのアクセスが増えメディアなどでも似たような事例が次々に報じられる中、これをきっかけに 「世の中にはクレーマーという、企業に理不尽な要求や執拗な抗議を行う人が一定数存在する」 との認識を一般にも急激に高めることとなりました。

 企業の苦情対応に関する様々な施策もリスク回避のためのマネジメントのひとつとして提唱され、ほぼ同じ頃にモンスタークレーマー、しばらくしてモンスターペイシェント (モンスター患者/ 病院や医師などに理不尽な要求をする) やモンスター乗客 (電車内で傍若無人にふるまう) やモンスター住民 (行政にむちゃくちゃな要求をする) などなど、モンスター〇〇といった言葉が次々に登場、流行語のようになりました。 時期は前後しますが、ずっと後の2014年9月にはコンビニ土下座事件 (店に理不尽な要求をして店員らに 土下座 を要求、その様子を動画に撮影した上、店の物品を脅し取った事件) が発生。 自分勝手で自己中心的な人間が増えているとの認識はすっかり定着しています。

 一方、この動きと同時進行するように、「企業・店舗や病院と客・患者の関係ではなく、学校と子供・親の関係でも似たようなことがある」 との、教員や元教員などによる情報が最初は個人、続いてメディアからも様々な形で発信され、2000年代に入ると徐々に認知度されるようになります。 当初はモンスター親といった言葉だったと思いますが、2008年2月に NHK 「クローズアップ現代」 がモンスターペアレントという名称で報じ、また同年7月1日〜9月9日にはこの言葉と同じタイトルとなるテレビドラマ 「モンスターペアレント」(関西テレビ制作/ フジテレビ系) が放映されると、ドラマ的な誇張がされながらも教育関係者とモンペとのトラブルや実態が分かりやすく紹介され、一気に世間での 認知 が急上昇することとなりました。

 なおこのドラマでは米倉涼子さん演じる高村樹季弁護士が、「娘の担任を変えろ」「給食費は払わない」「息子を絶対医者にしろ」 などと理不尽な要求を繰り返す親や対応に苦慮する学校側の間にあって、時としてモンペをやりこめ、時として子供や親に寄り添い両者の仲介を行うなど、教育 現場 のあれこれに光を当てる社会派ドラマとなっていました。

 その後モンスターペアレント・モンペはある種の流行語のような扱いとなり、2010年9月には 「児童の保護者から常軌を逸した抗議を受け不眠症になった」「連絡帳に 「悪魔のような先生」 と書かれ名誉を著しく傷つけられた」 と、自らが担任する小学3年生児童の両親に対して損害賠償を求めた教諭の提訴も起こります。 学校側がこの提訴を 「モンスターペアレンツに負けないための訴訟」 と教育委員会に説明したため、メディアにおいてもこれをそのまま使い 「行田市モンスターペアレント裁判」 と呼ばれました。

 なおモンペ名称そのものを作ったのは諸説あるものの、元小学校教諭で教育者の向山洋一さんだとされ、2007年夏に造語したと本人が主張しています。 その定義によれば 「担任・学校に対する不当な要求をしつこく続ける親」 となっています。

保護者をモンペ扱いすれば学校や教員は被害者? 難しい両者の言い分

 モンペが注目を集める一方で、学校や教員側に問題があるのに、それを子供や親のせいにしてモンペのレッテルを貼って言い逃れるといったトラブルや事件も頻発します。 とくに 「いじめ」 に関するトラブルでは、いじめ被害者の子供や親の訴えをモンペ扱いして無視したり、いじめを受けた子供の自殺などで裁判沙汰になってもそれを理由に開き直るなど、様々な問題も生じています。

 そもそも学校や教員に問題があっても、進学問題などで子供や親は学校に対して強く出にくい立場ですし、また学校や教育委員会、自治体、それらとしばしば一体化した PTA といった組織は、保護者が個人で相手にするにはあまりに強大すぎる存在です。 「問題があるので抗議しても無視されるならば、何度も何度も抗議するしかないではないか」「その際に多少強い言い方になっても、学校の不誠実な対応によっては理解できる範囲の話だ」 との意見もあります。

 先に述べた 「行田市モンスターペアレント裁判」 においても、訴えの一部は認められたものの教諭側の請求は退けられ、学校や教諭側の対応に疑問点も多々あり、保護者側は後に 「何度訴えても無視されどうしようもなかった」「主張が認められてほっとした。モンスターペアレントに仕立てられ、マスコミが怖かった」 などとその苦悩を語っています。 保護者をモンペ扱いすることで問題を揉み消すようなことは、当然あってはならないでしょう。

 良い学校や教員もいれば、良い子供や親・保護者もいます。 一方で、自己中心的だったり自己保身しか眼中にない悪い学校や教員、悪い子供や親・保護者もいるでしょう。 良い悪いは人によって違いますし、当事者間でなければ分からない交渉時の言葉の機微や、行き違いすれ違いなどの 不運 だってあるでしょう。 どちらの言い分が正しいのか、話し合いで決着がつかないなら最終的には裁判などで事実関係を明らかにするしかないのですが、どちらも、あるいは社会も、相手の立場を考えた言い方や行動ができると良いのですが、価値観が多様化する中、中々難しい問題ではあります。

 なおモンペとは別概念である 「毒親」(子供を自分の所有物やペットのように扱ったり邪魔者扱いするなどして、子供の自主性や自己肯定感の醸成を阻害し健全な成長を妨げるような親) と複合する場合もあります。 前述した通りモンスターペアレントの子供をモンスターチルドレンと呼びますが、小さな子供は一般的には親の影響を強く受けている存在であり、子供に何らかの社会的問題があったとしても、それは親の問題だと考えるべきでしょう。 ある意味子供はその犠牲者でもあるのですね。

動画サイトで 「モンペ芸」 が炸裂

 ちなみに 筆者 はこうしたニュアンスの言葉を 自虐的ネタ として行っているのを初めて見たのは、アニメ 「らき☆すた」(2007年4月〜9月) が終了した直後の 「ニコニコ動画」 の動画の字幕でした。 最終回となる 第24話 「未定」 では、同番組のオープニングである 「もってけ!セーラーふく」 にあわせたチアダンスを、登場人物たちが文化祭のオープニングセレモニーで披露するという内容が中心で、主にそのクライマックスシーンでのものでした。

 視聴者らは動画を見ながら自分の好きなキャラへの掛け声などを字幕 コメント につけていましたが、好きなキャラの扱いが悪い視聴者らから 「なんで〇〇が映ってる時間がこんなに短いんですか!」「先生! もっと〇〇を見せてください!」「PTA に訴えますよ!」 などの自分勝手な要求や抗議の 書き込み が殺到、もちろん全てネタとしてのお話ですが、完全にモンペ状態となっていました。 ちなみの蛇足に筆者は日下部みさおが好きだったので、「先生!なんでうちのみさおをカットするんですか!!」「責任者は誰ですか!?」 などと書き込んでいました…。

 この頃はモンペという言葉はあまり広まってはいなかったと思いますが、「モンスター親」 といった言葉はすでにあり、ギャグとして イキった ような親バカを演じるファンはその他の作品も含め、結構いたものでした。 それ自体は単なるネタではありますが、事情をよく知らない部外者が見たら真に受ける場合もあるかもしれませんし、贔屓の引き倒しにならないよう、筆者も十分注意します…。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2010年10月21日)
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