リアルでもゲームでも実用性とファッションが大事! 「防具」
「防具」 とは、戦闘 において敵の攻撃から身を守るための鎧や兜、盾、あるいは何らかの危険が伴う作業やスポーツなどにおいて身体を防護するための 装備品・道具類のことです。 基本的には敵からの物理攻撃 (打撃や斬撃、射撃) から装着者の身体を守るためのためのものですが、機動力を高めて敵からの攻撃を回避する、迷彩などを施して敵の目を欺く、危険な状況にいち早く気付いたりその場を離脱するための工夫が凝らされた アイテム を指すこともあります。
現実世界の防具は使用される 武器 や戦術の変化に伴って進化してきました。 人類がいつ頃から使いだしたのかは諸説あるものの、そもそも衣服自体が 日常 の生活で身体を保護する目的がありますから、軍事 にせよ狩猟やその他の作業にせよ、生身の体に何らかの保護を施すのは人類が道具を使い始めた頃から生じていたのでしょう。 とくに皮革を経て青銅や鉄といった金属で作られた防具類の強靭さは、同じく金属製の武器の登場と共に、人類を地球上の生物の中で 最強 の地位につけるものだったと云えます。
武器と合わせて武具とか、アーマー (armor/armour) といった呼び方をすることもあります。
文化や気候、戦い方に合わせて発展する防具
防具の中でもその極致とも云えるのは、日本の武士が用いた甲冑と、西洋の騎士が用いたプレートアーマーでしょう。 いずれも身体の急所となる部分を重点的に守るだけでなく、最終的には身体のほとんど全てを覆うようになり、それぞれの文化や気候、戦い方に合わせて独自に発展しています。 さらには戦場での武威の発露や華々しい活躍を内外に示すために華麗な装飾まで施され、いずれも武具や工芸品の枠を超え、ほとんど美術品や芸術品の域に達しています。 日本では5月5日の端午の節句では、男子の健やかな成長や健康、厄除けを願って鎧兜や鎧兜姿の人形 (五月人形) を飾る風習があり (あわせて鯉のぼりもあげられます)、3月3日の女子のための桃の節句 (ひな祭り) のひな人形とセットで日本の春先の風物詩ともなっています。
現代では軍事用には防弾チョッキやヘルメット、国内の 治安 維持用にはそれらに加え防刃チョッキやジュラルミンの盾や目を保護するゴーグル、スポーツ用には各競技に応じた専用の防具が開発され、進化を続けています。 こちらもミリタリーやスポーツ用を中心に実用性だけでなく ファッション の部分も重視され、日常生活やタウンユースに適したものも登場し人気を得ています。 とくにウインタースポーツやバイクなどモータースポーツ向けの防具類は機能性の高さや堅牢さから、ファッションアイテムとしても注目されるようになっています。
マンガ や アニメ といった創作物に登場する架空の防具は、作品 の 世界観 にあわせて特殊な機能を持つものもあります。 例えば魔法が存在する 物語 のそれなら、攻撃魔法を跳ねのけたり中和して ダメージ を軽減するものもあります。 おおむね魔力によって守られており、とくに敵の魔法攻撃と対になる 属性 (例えば火や炎に対する水や氷など) が付与されていることもあります。 ゲーム では プレイヤー が操作する キャラ や ユニット に 装備 するための重要なアイテムのひとつともなっています。 また防具とはあまり呼びませんが、SF の世界では電磁気力や何らかのエネルギーを用いたバリアやシールドと呼ばれる透明や半透明の防護幕が張られることもあります。
ちなみに バトル ものなどで、若い女性 キャラ などが身に着ける防具のうち、肌色 の 露出 が多くてまるで ビキニ水着 のようなものは ビキニアーマー と呼びます。 鎧やアーマー本来の役割である身体を覆って守る機能がなさそうな状態を揶揄する呼称であり、ビキニ鎧と呼ぶこともあります。
日本の甲冑における各部位の防具
防具は日本やアジア地域のものも西洋やその他の地域のものも、基本的な部分ではおおむね同じような構成や目的を持っています。 頭を守る兜、胴体を守る胴鎧が致命傷を防ぐ最重要なものとされ、生命や身体を守るだけでなく戦闘を継続するために武器を持つ手、機動力を発揮する足もそれぞれ別の防具を身に着けて守ります。 時代や地域によってそれぞれ独自の進化をしますが、戦う際の役割や用途によってこれらを組み合わせる点も同じです。
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兜 (かぶと) 鉄兜 | 着用者の頭部を守るための帽子状の被り物です。 皮や木材、鉄などで作られ、非常に堅牢なのが特徴です。 衝撃を分散する形状と内裏の当て革で安全と快適性を確保します。 鍔や兜飾り (前立て) で武威を示し、材質や飾り、色 などで身分や所属が伺えます。 とくに戦国時代の兜飾りは武将それぞれの目印とも云えるもので、創意工夫に富んだ様々なデザインのものが登場しています。 現代にあっても頭部の保護は重要なためヘルメットに形を変えて生き残っています。 |
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面頬 (めんぽ) 頬当て | 顔面や頬を保護する装具です。 全身や顔を覆うような甲冑やアーマーでも、視界を確保するための目と呼吸のための鼻や口だけは開口する必要があり (可能であれば張力のための耳部分にも)、安全と快適性のバランスを取った形状が必要です。 金属製や革製があり、斬撃や破片から顔面を守るとともに、接近戦での敵に対する威圧、着用者の恐怖心を和らげる心理的効果もあります。 西洋甲冑の場合は、ヘルメットのシールドのように兜部分の一部が動いて面頬や頬当てを兼ねるケースが多いでしょう。 |
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胴 (どう) 胴丸 (どうまる) | 甲冑の中でも主要な防御部位である胸部と腹部を覆う防具です。 斬撃や衝撃によく耐え、兜とこの胴丸だけで致命傷を避けるための最低限の防御が可能となります。 鉄板や革の層を重ね、材質と形状で防御力と回避力、機動性のバランスをとります。 防御だけでなく着脱や動作のしやすさも考慮して作られますが、甲冑にせよプレートアーマーにせよ、胴部分を一人で身に着けるのはほぼ不可能です (形状によります)。 胴の部分は心臓のある左胸はもちろん、傷を受けると致命的な部位でもあるため、堅牢で防御重視となっている点が大きな特徴です。 また腹部を中心に丸みを帯びて着用感をよくするほか、刃や矢が表面で逸れて弾けるよう工夫 (現代の避弾経始) されています。 |
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小袖 (こそで) 袖鎧 (そでよろい) | 腕の部分を保護する袖状の防具です。 布や紐と金属板を組み合わせ、手首あたりから肩までの腕全体をカバーします。 関節部は可動性を維持するために分割構造になっています。 わきの下の部分は鉄板などで覆うことが難しく、しばしば甲冑着用時のウィークポイントとなりますが、胴の部分で工夫をするか、後述する鎖帷子で補助・補完する形が多いでしょう。 |
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籠手 (こて) 手甲 (てこう) | 手や前腕を守るための装具です。 指先を覆うものの他、指を出すタイプもあり、防御力だけでなく武器の操作性も強く考慮して設計・制作されます。 敵の斬撃や打撃からこちらの武器を持つ手を守る重要な防具であり、単に着用者の身を守るたけでなく、戦闘力を維持する役割も担います。 指先には武器を握る際の滑り止めを兼ねたものもあります。 |
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佩楯 (はいだて) 腰当て | 古墳時代から使われていた斬撃や破片から腰回りを守るための防具です。 腰部や太もも上部を保護するためのもので、逆V字型になった板状のものを腰に巻いて垂れ下げて装着するものが多いでしょう。 脚に合わせ左右に分割されているため歩行や騎乗時の動きを妨げません。 身体に着用するためには設えられた腰帯のような佩楯紐を用います。 |
| 臑当て・脛当て | 脛 (すね) や膝下を守る防具です。 金属板や革を用いて足の前面を覆い、打撃や矢から防御します。 膝関節付近は小袖同様に上下で分割がされ、曲げやすく工夫されています。 脚部分は胴体部分と違い、多少傷ついてもすぐに生命に影響を及ぼしませんが、腕の防御が戦闘力維持のためにも重要なように、脚も集団戦における機動力や撤退時の逃げ足を左右する重要な要素であり、おろそかにはできません。 とくに脛の部分は切り傷や刺し傷はもちろん打撲であっても脚の動きを止めてしまいますし、敵からもしばしば狙われやすい部位でもあるため、しっかり守る必要があります。 |
| 草摺 (くさずり) | 胴の下端から垂れ下がる薄板や札の列で、腰や上腿を保護するために着用します。 重ねる構造で可動性を確保しつつ、斬撃が胴に達するのを防ぎます。 装飾性も兼ねて華美な設えとなることも多いです。 |
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鎖帷子 (くさりかたびら) 鎖甲 | 小さな金属環を編んで作る柔軟な防具です。 刃が通らないため致命傷を防ぐことができます。 体に密着しやすく斬撃や刺突に強い反面、打撃に対しては効果がさほど見込めず、また重量がかさむのも欠点です。 制作には大きな手間がかかり、高価な防具のひとつでもあります。 部品として胴や袖、脚部など広範囲に部分的に用いられたり、上半身・下半身を覆う シャツ や パンツ のようなタイプもあります。 甲冑を身にまとう合戦といった大規模戦闘以外でも現在の防弾・防刃チョッキのように護身用として用いられ、着物の下に単独着用されることもあります。 |
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陣笠 (じんがさ) 綾藺笠 (あやいがさ) | 室町時代以降に足軽や雑兵といった下級兵士が戦場で用いる簡易的な兜や、もっぱら江戸時代に上級武士が外出用や典礼用の頭上飾りとして用いた帽子状の防具です。 藺草 (いぐさ) を綾 (あやおり) したり紙を重ね貼りして漆で固めた平たい円錐形をしており、雨露や直射日光を防ぐほか、典礼用のものは象徴的な意匠で所属や家紋を示し、視認性を高め士気向上に寄与します。 防護目的というよりは、平時のファッションといった意味があります。 流鏑馬の際に使われる綾藺笠 (平べったい円形を二つ折りにし、頭頂部に髻 (もとどり) を入れるための筒状のでっぱり (巾子) があるもの) が、陣笠の原型とも呼ばれます。 なお幕末に西洋流軍学の影響によって作られたものに とんきょ帽があります。 欧州の歩兵や騎兵が使用した背の高い帽子を参考にしたもので、三角錐のような形をしたものをそう呼びます。 |
| 陣羽織 (じんばおり) | 主に戦国時代から江戸時代前期にかけて武将が甲冑の上に着用した上着のことです。 防寒や雨具としての実用性もさることながら、戦場での着用者の存在感や武威を示す装飾品としての役割も兼ねていました。 洋服の ベスト のように袖のない丈の短い羽織が一般的で、素材に凝ったり色や 柄 にこだわったり背中の部分にド派手な刺繍を施すなど、武将の個性や美意識を表現するおしゃれ着・芸術品としても発達しました。 |
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胴裏 (どううら) 当て布 | 甲冑の内側に施す布や当て材です。 直接肌に触れる部分の不快感や衝撃を緩和し、着用時の快適性を高めます。 吸湿や通気の工夫が施されることもあります。 |
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臑当て裏 (すねあてうら) 当て革 | 脛当ての内側に張られる革や布の当て材です。 着用時の摩擦や衝撃を和らげ、装着感を良くします。 また汗による金属腐食の抑制にも役立ちます。 |
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兜緒 (かぶとお) 兜の緒・勝ち緒 | 兜を頭部に固定するための紐のことです。 顎紐とも呼びます。 甲冑は身に着けているだけで体力を奪うものですが、とりわけ兜は首への負担も大きく、しっかり固定されていないとグラついて首を痛める原因にもなります。 北条氏綱のものとされる格言に 「勝って兜の緒を締めよ」 がありますが、勝ったと思っても油断して兜を脱ぐようなことはせず、気を引き締め緊張感を持って臨めという戒めや気合いを象徴する存在ともなっています。 |
| 佩楯紐(はいだてひも) | 佩楯を腰に固定するための紐のことです。 腰帯やエプロンのように腰に廻して後ろで交差させ前で結んだり、袴のようにそのまま穿くような形式のものもあります。 |
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脛紐 (すねひも) 留め具 | 脛当てや佩楯を脚に固定するための紐や留め具です。 着脱のしやすさと保持力を両立させる設計が求められ、結び方で調整可能です。 |
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楯 (たて) 手盾 | 主に手で持つ盾で、敵の斬撃や矢、打撃を受け止め、身をかわすための直接的な防御に用いられます。 利き手に剣、逆の手に盾というのがもっともオーソドックスな用い方です。 大型で地面に立てて使うもの、従者が主人のために持つものなどもあります。 日本の場合、両手で引く弓や馬を使った機動的な戦闘スタイルに合わないため、あまり用いられていません。 また鎧の進化による防御力の向上、鉄砲の普及による盾の無効化 (火縄銃の弾を防ぐほどの盾は重過ぎる)、山城を中心とした山岳地帯での戦闘にも向いていないなど様々な理由があります。 ただし全くなかったわけではなく、盾が必要な場合は金属で補強した木製のものなどが使用されていました。 |
防具と装甲
通常防具というと個人が装着したり携行する道具類を指しますが、ロボットや軍事車両・軍艦・軍用機などの兵器類に装着する装甲などを指すこともあります。 この場合、すでにそれ単体で成立する兵器類に後から施すものもあれば、それぞれの兵器の構造体と一体化しているものもあります。 とくに厳重な装甲を特定の状況や作戦に応じて任意に後付けする場合は追加装甲と呼びます。 また複数の素材や方式の装甲を組み合わせる場合は複合装甲、装甲がないかのように敵の攻撃がスパスパ貫通するような状態は俗に 紙装甲 と呼びます。





