急所を守るどころか、ほとんど水着か全裸 「ビキニアーマー」
「ビキニアーマー」(ビキニ鎧・防具) とは、創作物における女性剣士や戦士が身に着ける防具 (アーマー/ 鎧/ 甲冑) が、まるで ビキニ水着 のような状態になっていることを揶揄する言葉です。 歴史上の実在防具、あるいは同じ作品中の男性用のそれとは異なり、やたらと 肌色 の 露出 が多いものを指して使います。
通常こうした防具は、肩に肩防具がついたり腰回りに前面が開いた ミニスカート のような短めの垂がついているだけで、体はほとんど 全裸 にビキニ水着のブラジャー状の胸当てと パンツ のみであり、「敵の攻撃から急所を守るという防具としての役割を果たしていない」「肉弾戦において重要な威圧感もない」「機能性や蓋然性・合理性を欠く説得力のないもの」「ビジュアルや エロ さを重視しただけのもの」 として批判されがちです。
また男性女性両方の キャラ が登場する作品で女性だけが戦場で全裸や半裸に近い状態なのは違和感もあり、そこに女性差別や女性性の商品化といった意図、「女性キャラの性的魅力だけをクローズアップするもの」 を感じて批判されるケースも時代を下るにつれて増えてきました。 ビールの ポスター や企業のカレンダーなどに、まるで関係のない 水着 の女性グラビアが使われるのと同種の扱いという訳です。
ビキニアーマーは欧米の ファンタジー や SF 作品などによく登場し、日本においてもそれを追いかける形で広まりますが、実際のところ女性の身体的魅力をアピールすること、それによって注目を集めたり 商業的 な利益をもくろんでといった 大人の事情 による採用という面があるのは間違いがなく (単に 作者 の好みや ロマン、それを求める 読者 の ニーズ に合わせた結果という部分も大きいですが)、様々な作品がリアル志向になる中、その数は徐々に減っている、あるいはそこに何らかの合理的な理由付けがされることも増えているでしょう。
なお服飾品の 素材 や構造がおかしい、蓋然性や合理性がないような創作物における学校の 制服 などを 謎服 と呼びますが、これに倣って謎防具とか謎アーマー・鎧と呼ぶこともあります。
ビキニアーマーに対する合理的? な理由付け
性的魅力を求める読者におもねり、まるで女性の裸体を コンテンツ を売るための客寄せパンダにしているかのように見られがちなビキニアーマーですが、そこにそれなりの合理性を求めたり、後付けだろうが理由をつけるような動きもあります。
例えば西洋甲冑でもフルアーマーと呼ばれるような全身を覆うタイプの防具は貴族やごく一部の富裕層のみが身に着けていたもので、重装歩兵といった兵科もあったものの、乗馬して使うのが前提といった運用もありました。
何しろ重さは甲冑のみで 20〜30kg に及び、その他鉄製の兜やチェーンメイルといった金属製の防刃着まで着込み、上半身がとくに厳重に守られていたため重心も高くなりがちで、男性でもある程度以上の鍛錬を行った屈強な肉体がなければ維持できないものでした。 自分だけで脱着することもほぼ不可能で、転倒したら自力で起き上がることもできません (甲冑の構造や時代にもよりますが)。
女性がこのような重い甲冑を身に着けても立っているのがやっとで動き回ることも難しく、隊列を組んでの団体戦が中心の中世近世の戦場でフルアーマーを着込む方がリアリティに欠けるという意見もあります。 歩兵ならなおさらです。 その場合、装備の重さや防御力と軽快さや動きやすさはトレードオフの関係なので、どうせ着るのが無理ならば、いっそ最低限な 紙装甲 にして素早い動きで敵の攻撃を避ける方が合理的だとの判断もあるでしょう。 急所が無防備でも 「当たらなければどうということはない」 というわけです。 そもそも創作物の世界では、鎧があろうがなかろうが敵兵を何人かまとめて丸ごと消し飛ばすような剣技が登場するわけで、鎧に防具の意味など実質的にないケースも多いでしょう。
一方、魔法の 概念 がある作品の場合、魔法や魔力で物理攻撃を弾く効果が付与されているという 設定 があるのだと説明がされることもあります。 見た目が軽装でも魔力で攻撃を弾くというわけです (じゃあ男性もそれを使えよ…って話になりますし、だったらビキニでいいじゃん何でビキニアーマーなんだよって話でもありますが)。 まぁ ヒロイン となる一部の女性のみにそうした魔力や能力があるのだとすれば、それなりの説得力もあるかもしれませんけれど。
軽装なら逃げやすい
戦闘に敗れて逃げ遅れると敵に捕まり殺されるか捕虜となります。 一部の貴族などは身代金目当ての 人質 として捕縛されるに留まり敵からよほどの遺恨でも持たれてなければ殺害まではされないケースも多いのですが、名もなき雑兵は皆殺しにされるか 奴隷 として売り飛ばされる運命です。 ビキニアーマーは身軽で逃亡に向いています。 川や海など水の中に入って逃げることだって可能でしょう。 鎧を着た敵は沈んでしまうため追ってこれません。
男性中心の戦場で女性性や肉体をアピールする形のビキニアーマーは敵兵に捕らえられると性的な虐待や 凌辱 を受ける可能性が極めて高いものの、逆に男性剣士や戦士のようにその場ですぐに殺されたり真っ先に命を狙われる可能性は低いと判断されることもあるでしょう。 性的虐待と虐殺、どちらも最悪の状態ですが (そもそも性的虐待を受けた後に 性奴隷 にされたり虐殺されることもある)、生き延びることが第一と考えるなら、そうした面での選択もないわけではないのかも知れません。
とはいえ、これら後付けっぽい設定が仮に有効なのだとしても、胸や股間が布で覆われているだけとか、腹や臀部を丸出しにする必要などは全くないわけで、さすがにちょっと無理があるというのが大方の見方でしょう。 あるいは舞台が南方地域で戦場の暑さを理由にしても良いですが、熱帯地方ではむしろ体を覆って日差しを避ける傾向がありますし、女性だけが薄着の理由にもなりません。
ただ念のため申し添えれば、作者や読者が好きでその好みにあった作品を 供給 するのは、別に悪いことではありません。 政治的な正しさ (ポリコレ) が時に厳しく創作物に求められるようになってはいますが、別に全ての作品が個々にそれを墨守する必要はありませんし、ビキニアーマーが必ずしも女性蔑視や差別に根差した表現でもないからです。 単にその方がキャラの見栄えがする、魅力的に見えるという人がその時点では多いというだけです。 創作物における個人の好みや 趣味 は、時代による流行り廃りや歓迎される傾向はあっても、別に正しいも正しくないもありません。
なお着衣状態の大勢の男性の中に全裸・半裸の女性が一人もしくは少数いる状態を CMNF と呼びますが、この一種だとする見方もあります。