最初に作った本が売り切れたためにもう一度発行…「再版」
「再版」 とは、過去に発行した 同人誌 (既刊本) が売り切れたり、何らかの理由で内容の微調整や 印刷 のやり直しをしたい時などに、同じ同人誌を同じ刷版あるいは微調整して 新規 に作った版を使い、同じ仕様・体裁 (サイズや紙質) で再度発行 (刷り増し) することです。 厳密な定義は異なりますが、実質的に同じ言葉として 「重版」(重刻) や 「増刷」 と呼ぶこともあります (後述します)。
また単に 「在庫切れになっていた同じ本をもう一度作って販売します」 の意味で、「再販」(再販売) と呼ぶ場合もあります。 「再版」 と 「再販」 で意味は全く違いますが、本を買う方からしたら、使いどころはほとんど同じです。 ちなみに書籍類の販売で、「再販制度」 ってのがありますが、これは 「再販売価格維持制度」 の略語で、古書とならない新品の本は値引きを認めず、小売店は出版社が定めた定価で販売するという制度で、ここでいう再版や再販とは何の関係もありません。
「再版」 や 「重版」 と 「増刷」 との違いは…?
一般に オフセット印刷 などで作られる冊子などは、原稿 から印刷用の製版フィルムや刷版を作り印刷します。 版を新規に作るのにはお金がかかり、商業出版 の世界では、印刷業者 は雑誌や一部ムックなどを除き、特定書籍のフィルムなどを初版発行から期限を区切って保存している場合が多いものです。 初版第一刷で打ち止め (絶版) となると製版フィルムは廃棄し、制作した版の費用はその発行部数で吸収することになりますが、増刷がかかると第二刷以降は刷版の制作費用が掛からなくなり、価格が同じならば1冊あたりの制作実費が下がり、利益率が上がることになります。
しかし同人誌などのように元々が小部数を前提とした印刷物だったり、軽印刷などでフィルム工程を飛ばして直接刷版を作る場合には、こうした方法は使えず、初版発行の時と同じく、最初から 完全原稿 を 入稿 して本を作ることになります。 商業や一部の 大手サークル などでは再版や重版や増刷を 「本が売れたので増産しました」 の意味で使いますが、あまり厳密な使い分けはしておらず、どれも同じ意味で使われているといって良いでしょう (印刷屋さんによっては厳密に使い分けたり、まったく同じ意味だと説明しているところもあり、個別の業界団体や個々の企業としても言葉としてまとまってません)。
なおデジタル出力による オンデマンド印刷 の場合は刷版がそもそも存在しないため、増刷でも原則として費用は変わりません。 また内容の微調整や追加などがあった場合、版は存在しませんが、慣習にならって第二版第三版といった云い回しをすることもあります。 「初版とはちょっと違うけど同じ本です」 の意味ですね。 それ以上の変更がある場合は、改訂版 (内容の一部が大幅に変わっている) とか増補版 (章や項目が増えるといった大幅な変更やそれに伴うページ数の増加がある) と呼ぶこともありますが、これらも絶対的な基準はなく、わりと 雰囲気 で使い分けているケースもあります。
小部数発行の同人誌では、ファンが再版を要望したり
同人サークル で再版をかける状況はサークルそれぞれの考え方次第で、好んで小部数の再版を繰り返すようなサークルも結構います。 一番分かりやすいのは、弱小の ピコ手サークル として長くやっていて、その後ブレイクし ファン が殺到。 「過去に小部数発行した同人誌をもう一度出して欲しい」 などと 読者 から希望されて再版するケースがあります。
また印刷屋さんに印刷や製本を依頼しない コピー誌 などは、さらに小部数発行だったりするので、手に入れ損ねた固定ファンが、再版を要望してそれに応える場合もあります。 コピー (複製) ではオンデマンド同様に印刷 (出力) の際に版は使いませんが、便宜上 再版と呼ぶ場合がほとんどです。
初版と再版で値段が違う…これはなんで?
一般的に同人誌等の場合、再版にせよ重版・増刷せよ、刷版の使いまわしができるケースは少ないですし、これといった費用上のメリットはありません。 単に最初と同じ工程で本を作るだけです。 むしろ初版で 1,000部作った後に再版で 500部作ったら、後の方が1冊あたりの製造コストは高くなります。 初版は500円だったけど再版は600円になってたりするのは、しばしばこれが原因なんですね。 しかし印刷のことなどに詳しくない人から見たら、「同じ原稿を使いまわして数を増やしただけなのに、何で値段が上がるんだ」「足元をみている」 などと、不信感を持つ原因になったりもします。
同人イベント などに参加している人は、その多くがサークル関係者だったりで、ここらは 「お互い様」「常識の話」 だったりもするのですが、買い専 や 読み専 と呼ばれる 一般参加 の人たちの中には、印刷業者とやり取りしたこともなければ、こうした仕組みを知らない人も多く、商業出版物を見るのと同じ感覚でサークルを見てしまい、あらぬ誤解から険悪な状況になったりもします。
もちろん印刷費用の実費からかけ離れた 頒布 価格を 設定 するサークル、金儲け主義のサークルも多く、どっちもどっちとも云えますが (再版ばかりで、新刊 がちっとも出ないサークルもファンとしては辛い)、まぁ、他人は他人、自分は自分と割り切るのが精神衛生上一番かも知れません。