ネットの匿名性の是非を問う討論で飛び出した 「写像」「ダメだこれ」
「写像」(捨像)「ダメだこれ」 とは、苦し紛れのレッテル貼り、ある種の 「勝利宣言」 のような意味の言葉です。
議論の場で、あまり一般的でない言葉を得意げにことさらに使ったり、あるいは議論で負けそうになった人が意味を勘違いしながら小難しい専門用語、理数系言葉を使い煙に巻こうとしたところ、相手にそれを的確に突っ込まれ、逆に自分の 解釈 が一般的で正しいとした上で、「こんな言葉も知らないのか」 と開き直って逆ギレし、相手を見下して言い放つような ニュアンス となります。 またそうした苦し紛れの言動を表わす、一種の ネットスラング のひとつとなります。
なお日本語における 「写像」 にはいくつかの同音異義語があり、デッサンなどで物を描き写すこと、カメラなどがレンズで光を一点に集めて被写体の像をフィルム面に作ること、あるいは数学理論の世界で 「集合」 の一部に使われる言葉などがあります。 またこれらと関連して、人によっては 「写し鏡」「表裏一体」 なんて意味で使うケースもあります (同音異義語によっては、誤用になります)。 またこの言葉の 元ネタ が話し言葉だったことから、同音の 「捨像」 ではないかとも云われ、この場合は一定のモデル、典型的なステレオタイプを作る中で、重要でないものを切り捨てることを、そう呼ぶ場合もあります。
これらの言葉は、2010年5月2日から 2ちゃんねる などの 掲示板 や ブログ などで急速に広まりました。 元ネタは、同日 BSジャパンで放映された 「デキビジ」 のコーナー 「勝間和代 VS 西村ひろゆき」 の内容からとなります。
あまりの一方的展開中に飛び出した 「ダメだこれ」
前面に勝間さんのデキビジ公式ページ |
言葉の発端ですが、経済評論家、勝間和代さんをメインパーソナリティとする 「BSジャパン」(日経 グループ ・テレビ東京系BSデジタル局) の毎週日曜放映のビジネスマン向け経済情報番組 「デキビジ」 の人気コーナー 「プレミアム・ビジネス対談」 の、2010年5月2日放送分からとなります。
この日のプレミアムゲストは、掲示板 「2ちゃんねる」 の元 管理人 のひろゆきさんで、「勝間和代 VS 西村ひろゆき」 として、注目を集める組み合わせとなっていました。 かねてから ネット の一部で勝間さんの主張や言動などが批判されていたこと、ひろゆきさんの主張が、勝間さんらの主張と真っ向から反するものが数多くあり、また言いたい放題の番組出演がかねてから多かったことなどもあり、「ひと波乱ありそうだ」「これは期待できる」 との前評判も高いものでした。
主な テーマ は 「ネットの匿名性は是か非か」 や、「若者の起業支援はすべきか」「幸福論」 などでしたが、勝間さんはかねてから強硬なネットの匿名性排除の考えを持っている人で、また内閣府などで公的な仕事を行うなど、ネット規制や行政問題に影響力のある存在であること、ひろゆきさんは、世界最大の匿名掲示板の元管理人ということもあり、のっけから白熱した議論が交わされました。
議論は基本的に真っ向から対立するもので、さらに討論のテーマそれ自体にゲストが 「そもそも論」 で反対を述べるなど、ほとんど平行線の状態でしたが、中でも 「ネットの匿名性は是か非か」 は白熱。
「何ですか、シャゾウって」「ダメだこれ…」
議論の流れとしては、勝間さんが 「ネットの匿名による誹謗中傷は許せない、匿名がなくなれば改善する」 との意見に、ひろゆきさんが 「匿名だろうが山田太郎だろうが、発言内容に問題があれば発言主を突き止めてやめさせればいいだけの話で、IPアドレスによって個人を容易に特定できる以上、掲示板で匿名かそうでないかは関係がない」 と反論。 これに対し 「でも匿名と個人とでは、プロバイダにIPアドレスによる情報の開示を行うのにかかるコストが違う」 と勝間さんが応じると、「匿名でも、自称山田太郎でも、個人を突き止めるコストは同じ」 と再び反論。勝間さんは論点を微妙に変え、「実社会では名前を名乗るのが当たり前で、誰だって 名刺 を交換をするのに、ネットではなぜ匿名なのか」 と応じると、「講演会などで大勢の人に会い、相手が主催者なのか一般の人なのかもわからず挨拶などを行うが、その全員と名刺交換するわけではなく、名前を知らない相手と話をすることなど実社会でもいくらでもある」 と反論。 これに対し勝間さんが苦笑いをしつつ、「インターネット の話をしているんですよ、今は」 と逆切れ。
「あれ、でも今、実社会の話を持ちだしたのは勝間さんですよね?」 とひろゆきさんが応じると、勝間さんはしどろもどろになりながら 「いや、リアルの話に対してインターネットが 「シャゾウ」 であるということに、何故ですね…」 と応じ、これに対してひろゆきさんが 「シャゾウ? 何ですかシャゾウって?」 と返すと、呆れ返ったかのような態度で吐き捨てるように云い放ったのが 「ダメだこれ」 だったのでした。
ひろゆきさんは、「言葉を知らないのは申し訳ないですが、呼んだ人に対して失礼じゃないですか」 と応じたものの、発言の撤回や謝罪はなく、勝間さんの 「お互いの物言いは夫婦喧嘩のようだ」 との、よくわからない結論となって次の テーマ へ。
勝間さんのブログやツイッターは炎上状態に…
ひろゆきさんブログ (2010年5月6日) |
勝間さんブログ (2010年5月6日) |
この番組の様子は動画サイト 「ユーストリーム」 でも放送され、さらに 「YouTube」 などの 動画共有サイト にも多数アップされたことにより、大きな話題に。
当の勝間さんは、自身の ブログ (勝間和代公式ブログ: 私的なことがらを記録しよう!!) や Twitter (ツイッター) などで、「西村さんから、「2chはmixiやgreeよりもよっぽどIPの開示に応じている」という発言を、多くの方が視聴するメディアの中で得られたことは大変意義深いものだった」 などと 「成果」 を強調し弁解。
これではまるで犯罪 書き込み でもIP開示要求に応じてないかのような話ですが、しかしすでに2ちゃんねるの書き込みが元となって大勢の逮捕者がでている状況で、利用規約にもこのことはずっと前から明記もされています。
「いまさらこんな レベル の話をしているのか」 との呆れた印象を持つ人が多くなるのは当然でしょう。 この意味不明の成果誇示と弁解には批判の コメント などが多数ついて 炎上 の状態に。
一方、5月6日には ひろゆきさんが 「勝間さん対談の睡眠不足の反省と、幸福論 」 とのエントリーで、「睡眠不足もあって、口げんかっぽい粗野な対応をしてしまったんですよね。いやはや、すいません。」 と、謝罪。
どう考えても謝罪すべきは勝間さんの側だったことから、これが一つのプレッシャーにもなったのか、同日勝間さんも自身のブログ上で、「ひろゆきさんとの対談について、心から非礼をおわび申し上げます」 と 公式 に謝罪しています。
「ネット規制」 を声高に叫ぶ人たち
勝間さんと云えば、筆者 のように古くから NiftY-Serve などの パソコン通信 をやっていた人間からすると割と昔から名の知れた方で (当時ニフティでも活躍されていました)、ネットやネットコミュニティ、ネットにおけるコミュニケーションなどについても十分な知識を本来は持っているはずの方なんですよね。 また 「匿名は責任が伴わない」 のは一方の事実ですが、片方では選挙投票も無記名の匿名です。 「匿名選挙は信頼性がない」 などとなったら、民主主義はなくなってしまいます。
今回の対論では、事実誤認がたくさんあり、「突っ込みどころ満載」 の状態ではありますが、ネットに疎い一般視聴者に分かりやすく噛み砕いた説明をしようと努力した結果、誤解を招いていた部分も、あるいはあるのかも知れません。 しかしブログで反論した後に自身の失礼な発言を謝罪したこともあり、単なる買いかぶりであったとの印象も相当強いのですが…。
正直、この程度の認識の方がネットの規制を公の場で有識者として述べるのに、強い危惧を抱くのも本音ではあったりもします。 何の規制問題でもそうですが、十分に客観的な情報や実態に即した共通認識をベースに規制推進派、反対派が建設的な歩み寄りができれば良いのですが、「結論ありき」 な論客の方の意見は、聞いていても疲れるものがあります。
ネットの仕組みを満足に知らない人に、「ネットの外」 の価値観やモラルだけで 「えいやっ」 と根こそぎ規制されてはたまったものではありません。 しかもその 「ネットの外」 の価値観で、ネット以外の言論は原則として法律や法令で制限されてはいません (表現の自由 に触れ憲法違反になるから当然の話です)。
フィルタリング や ブロッキング の話もそうですが、規制ありき、何かの既得権ありきではなく、情報開示を行い建設的で実りのある議論を求めたいものです。