社会人の必需品、最近は同人関係でも必需品に…? 「名刺」
「名刺」(めいし) とは、自分の名前や連絡先、所属団体などを小さな紙片に箇条書きにしたカード、他人に渡すために使う 自己紹介 のための道具のことです。 こうした目的と形状のものは、日本はもちろん、中国や台湾、韓国などの東アジアの国々で昔から盛んに使われています (欧米では、近代になるまであまり使われていませんでいた)。 ビジネス・社会人の世界では、必需品といって差し支えないでしょう。
欧米などにも、同様のカード (Visiting Card) を使う文化が一部にありますが、主にパーティーの席などで、挨拶を済ませ意気投合した相手に連絡先を教える、儀礼上交換するといった使い方で、時代的にもずっと後になってからの登場だったようです。 ただし日本で庶民のビジネスの場でも頻繁にやり取りするようになったのは比較的最近で、明治になってしばらくして、主に西洋の Visiting Card 文化の輸入という形で広まったもののようです。
なお一般に日本や中国といったアジア圏では初対面の相手との最初の挨拶の前に名刺を交換し、欧米では挨拶や交渉などが済んだ後に交換するケースが多いようですが、様々な文化や習慣が混ざることで生じた違いなのかもしれません。 ちなみに日本で名刺の存在が確認できる最古のものは、江戸時代中期から後期にかけて幕府の右筆・国学者として活躍した屋代弘賢 (1758年〜1月18日〜1841年3月10日) が遺した 「名刺譜」 が有名です。 当時の名刺を集めて貼り付けたもので、和紙に名前を書いたものが残っており、これらは現存する日本最古の名刺だと云われています。
名刺の発祥は…
名刺の発祥は古代中国における、訪問時の取次札にあるとされます。 お役人がどこかへ訪問した際に、お屋敷の門の前に備え付けられた箱に自分の名前や身分などを書いた札、「刺」 を投げ入れ、取り次ぎを頼むルールがあったようです。
現存する世界最古の名刺は、三国志の時代、呉の武将、朱然 (182年〜249年) のものとされます。 彼の墓を調査したところ、副葬品として遺体と一緒に埋葬されていたものです。 孫策の仲介で呉の名家の跡継ぎとなり、孫権とは学友で生涯の友、正史 でも三国志演義でも名だたる武将と渡り合い、最後には趙雲に斬られて死ぬ (正史では病没) という、三国志の ファン にはおなじみの武将ですね。
名刺のサイズは、55mm×91mm が基本
名刺の紙のサイズですが、現在は 55mm×91mm がその基本となっています。 名刺のサイズには色々あり、印刷屋さん や名刺メーカーによっていくつかの規格が作られていますが、このサイズのものは4号 (主に関東地域で使用)、あるいは9号 (主に関西地域) などと呼ばれ、もっとも普及している 定番 サイズでしょう。 日本語主体のものは、縦書きと横書き、および名刺の向きの縦横2種類があります。
もう一つ、比較的広く見かけるのは欧米サイズ (英文横書きサイズ) と呼ばれる 51mm×89mm でしょうか。 これ以外にも、上記標準の4号9号を基本として、大小様々なサイズのものが作られています。 ただし名刺は、受け取る人がいてはじめて成立するツールですし、多くの人は名刺を名刺ホルダーや名刺アルバムといった定形名刺サイズに合わせた入れ物で保存するので、あまりに大きすぎる名刺や一辺が長すぎる名刺などは、取扱いに困って迷惑かも知れません。
材質は比較的丈夫な厚紙、あるいは PP貼り加工 がされた上質紙などで作られていますが、薄い木板やプラスチック、金属製のものもあります。 また形状は長方形が基本ですが、一部に切れ込みが入ったり、複数の紙を貼り合わせたもの、会社ロゴなどに 箔押し がされたものもあります。 壊れたり取扱いに困る材質や形状でなければ、こちらも自由に素材を選べますが、当然制作するための費用・コストは材質や印刷の内容によって異なります。
印刷屋さんなどの業者に製作を依頼する場合、およそ100枚程度をひと区切りとして発注することになりますが (当然、刷り枚数が多いほど、1枚あたりの単価は下がります)、20枚とか30枚程度の少量印刷が可能な オンデマンド印刷 のサービスもあります。 趣味 で使う名刺などは、色々とたくさんの種類を作ってみるのも楽しいでしょう。
ビジネスの世界では必須の小道具 「名刺」
名刺というと、ビジネスの世界の必需品、社会人や会社員なら持っている人が非常に多いビジネスツールとなっています。 しかし似たような使い方をするカード類は、印刷物ではなく手書きのものを含め、学生や子供なども、友人や遊び仲間に配ることを前提に、よく見られるものです。
手書きの物というと、芸者さんやそこから転じて水商売全般で使われる花名刺や、それに近い ニュアンス の手書きのネームカードなどもありますが、自分を売り込んだり、人脈や友人関係を広げるためには、仕事にしろプライベートにしろ、持っていると何かと便利なのがこの名刺でしょう。
おたく・腐女子・同人・コスプレの世界における 「名刺」
いわゆる おたく や 腐女子、同人 の世界では、名刺 (いわゆる 同人名刺) はその他の実用品や 同人グッズ ほどには、あまり広まりませんでした。 一部の 編集サークル 以外はこれといって必要性がなく、また創作活動を行なっている 同人作家 や サークル の場合は、わざわざ名刺などを作らずとも、同人誌 や ペーパー (インフォメーションペーパー) が、名刺の代わりになっていたという点もあります。
一方、1980年代頃から コスプレイヤー、及びそれを撮影するカメラマン (いわゆる カメコ) の間では、仲間を増やしたい、何かの イベント で 合わせ をしたい、撮影した写真を渡したい、個人的な撮影の依頼や撮影した写真を ネット にアップする許可を得たいなどの必要性から、名刺を積極的に持ち歩いている人が多かったものです。 とくに パソコン通信 がある程度広まり、メール の利用者が増えると、メールアドレスを交換する必要から普及に弾みがつきました (これは同人名刺にも云えますが)。
とくにプリントゴッコのような簡易印刷ツールやパソコンとプリンターが普及して印刷物が比較的手軽に作れるようになったこと、プリクラなどの写真を安価かつ簡単に貼り付けるツールが登場したことにより、カラフルで凝った名刺 (コスプレ名刺/ コス名刺、コスカード) などが数多く作られ、コスプレイベント などで盛んにやり取りされるようになっています。
カメラマンが使う名刺は、例えば自分でコスプレ写真を掲載する ホームページ (ウェブサイト) や ブログ を持っている場合、撮影した 画像 をそこに掲載する許可を得るために身元や連絡先、サイトの URL などを相手に伝えるためによく使われます。 URL などは文字ベースのものもあれば、携帯電話が普及した後は、QRコードなどを添えたものも良く見かけます。
コスプレイヤーが使う名刺 (コス名刺) は、自分の写真やコスプレネーム (コスネーム)、過去に行ったコスプレの キャラ の紹介などを美しくまとめたブロマイド状のカラー印刷のものがよく見られ、仲間を集めたり、自分のサイトやブログを宣伝するために使ったりします。 こうした名刺は自分でプリンターを使って作ったり業者に頼んで作ってもらう場合もあれば、レイヤーと仲の良いカメラマンが撮影して作り、レイヤー本人にプレゼントされるケースなどもあります。
こうしたコスプレイヤーが持つ名刺は、女子中高生が遊びで作った名刺や、アイドルや音楽バンドの熱狂的なファンらがしばしば持っているそれと、形状や役割が似た傾向がありますが、ビジネス用の名刺などとはまた違った、時としてコレクション対象ともなるコミュニケーションツールとしての役割が大きいのでしょう。 プライベートでの使用に 限定 した遊びの名刺ということで、「なんちゃって名刺」 などとも、かつては呼ばれていました。
夏場に名刺をはだかで持ち歩くと、汗でしっとりと湿って…
コミケ などで名刺を使う場合は、名刺入れや名刺ホルダーのようなケースに入れて持ち歩くようにしたいものです。 これは、カバンや胸ポケットなどに入れて持ち歩くと折れ曲がったりしますし、なにより夏場など汗をかく時期ですと名刺の印刷がにじんだり、しっとり湿った状態になってしまう場合もあるからです。 初対面の人間の汗を吸った紙を相手に渡すのもあれなので、気をつけるようにしましょう。
そのほかの実際の使い方は通常の名刺と一緒ですが、手渡すときも受け取るときも、両手で行うのがマナーとなっています。 お互いに名刺を差し出して交換する場合は片手でも大丈夫です。 またビジネスマナーの世界では、やれ名刺入れを座布団にして渡すべき (名刺を名刺入れの上に乗せて渡す) とか、座布団は失礼だとか、相手が目上なら自分の名刺は相手の名刺より下に出すべきとかいろいろありますが、趣味の場ではそれほど気にしなくて良いでしょう (ビジネスの世界でも別に気にしない人も多いです)。 ようは笑顔で挨拶ができればそれで十分でしょう。