同人用語の基礎知識

問屋/ 卸問屋

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商品流通の要のひとつ 「問屋」

 「問屋」(問屋業) とは、商品の販売にあたって、生産・製造元 (メーカーや出版社) と小売店 (店舗や書店) との間に入り、在庫調整やリスク管理を含む流通全般を執り行う業態・業者を指す言葉です。 読み方は一般に 「とんや」 ですが、「といや」 という読み方もあり、法律でそれぞれは明確に分かれています。 「卸売商」 や 「卸業」「取次」 と呼ぶ場合もあり、業務範囲や業務機能もおおむね同じ単なる別名扱いですが、微妙な ニュアンス は異なります。

 なお製造元から消費者へ品物が販売されると、以降の品物流通は 「二次流通」(中古売買) となりますが、メーカーから小売店の間に問屋や卸業が何社入っても一時流通と見なされ、扱われる商品は原則新品扱いです。 ただし小売店から消費者 (客) として品物を購入して自分の店に並べる、誰かに販売する場合には、間に小売と消費者が入っているため中古売買扱いとなり、未開封・未使用であっても中古品扱いとなります。 この場合は正規の流通から離れた、いわゆる 転売リセール となります。

 おたく同人 に近い部分でいえば、書籍類の一時流通を担う出版流通ネットワークがおなじみでしょう。 2大取次と呼ばれる日販 (日本出版販売) とトーハンを筆頭に、大阪屋や栗田出版販売、太洋社、日教販、中央社などがあり、出版社と書店との書籍流通を担っています。 近年 ネット を利用した 通販 なども盛んですが、日本の場合はネット通販にもこれら取次が関わるケースが多いですし、出版社が直接書店に書籍を卸売りしたり消費者に直販するケースも増えているとはいえ、全体の7割以上が取次を経由した流通となっています。 なお自社で行う場合は 「自主流通」 となります。

 問屋が集まっている場所は、とくに 「問屋街」 と呼びます。 業界の関係者以外はあまり接点がない問屋街ですが、小売りなどを行っている問屋がある場合は一般の消費者が商品を求めて訪れたり、問屋の機能的に昔ながらの交通の要衝に位置し発展した問屋街も多いため、観光客が訪れるような街もあります。 とはいえ旧道扱いされる立地の場合は公共交通機関もあまり充実しておらず、車がないと交通の便が良くないケースも多いでしょう。 もっとも近隣に 産業会館 などが設けられていることも多く、そこを 会場 として開催される 同人イベント で訪れる人も多いかもしれません。

 なお日本最大の問屋街は東京の千代田区にある横山町・馬喰町・日本橋地区です。 成立は江戸時代 (18世紀後半) で、1,500にも及ぶ卸商社や店舗が新道通り沿いに軒を連ねています。 日本の中心地域でもあるため各種公共交通機関も充実し、日本はもちろん世界中からバイヤーが訪れる一大拠点となっています。 個人売りをしていない卸業者もありますが、毎年7月と12月の第1日曜日に大江戸問屋祭りが催され、その日だけは一般客を受け入れている業者もあります。 一方、台東区の浅草と上野の中間に位置するかっぱ橋道具街は調理器具や食器、食品サンプル、同じく台東区の御徒町は宝石・貴金属の街として有名です。

 すでに問屋街としての機能を喪失し、その後その風情を商店街として復活させた存在には荒川区の日暮里があります。 かつては日本最大の駄菓子・菓子問屋とされましたが、その後は閉店・撤退が相次ぎ、現在は駄菓子屋横丁として往年の 雰囲気 を現在に伝えています。

問屋さんのざっくり歴史

 問屋さんの原型ですが、鎌倉時代に河川や港といった交通の要衝近くに位置した海運業者で、流通や委託販売を担った集まり 「問丸」 (といまる) がルーツであると云われます。 当時取り扱った品物は主に年貢米でしたが、それ以外の地域の余剰物資なども集められ、問丸を経由した販売が行われていました。 ちなみに陸運業者の場合は馬借 (ばしゃく) と呼びます。 馬借ではなく問屋に存在感があり一般名詞化もしたのは、扱う物品の内容と、陸運とは比べ物にならないほどの海運による圧倒的物量によるものでしょう。

 こうした集まりの機能は、大きく分けて3つあります。 1つは品物を輸送・保管し物流全般を取り仕切る運送業者の役割、2つ目は物品の受け渡しの際の支払い金の預かりや建て替え、前払い、場合によっては融資や補償なども行う金融業や保険業、その仲介業としての役割です。 またこの2つの機能に密接に関連し時代を下るにつれ重要視された3つ目の機能として、販売予測や市場調査、生産・販売の支援活動、ひいては業界全体の発展や適正化の推進もあります。

 こうした仕組みは戦国時代から江戸時代を経て明治まで続きますが、明治維新による近代化の流れの中、ドイツの商法を手本とした法律で定義され、商法第551条によって 「といや」 として確立されました。 ただし江戸時代には運送業と卸売り業全般を合わせて 「とんや」 と呼んでおり、法律で業務範囲を限定した 「といや」 が定められた後も両者を一体化あるいは混同した 「とんや」 という呼び方の方が、現代でもポピュラーでしょう。

 なお 「とんや」 と 「といや」 の違いをごく大雑把に云えば、とんやは物品の流通からお金のやり取り、市場調査による販売計画策定まで幅広く取り扱い、価格をある程度自由に決めて主導的に商売ができる業態であり、一方のといやは製造者の決めた価格 (上代) での販売を前提に手数料を得る、委託的商売を行う業態だと云えるかもしれません。 なお自社で直接物流を行わずお金や物品の調達や斡旋、販売計画といった部分のみを行うのは一般に 「商社」、物流やお金のやり取りも行わず製造元の依頼を受けて代理業のみを行う業態は 「準問屋」 と呼びます。

 とはいえこの辺りの区分はとても難しく、法律で明確に分かれていても、時代的な言葉の変遷や業界で慣習的に使われる呼び方の重複などもあり、商法の 解釈 にせよ 日常 の会話での言い回しにせよ、明確にこうだと決めづらかったりします。 出版社が独自の流通網を持つ場合もありますし、問屋が直接小売りまで行ったり、商社がマーケティングから輸送・倉庫管理まで自前でやっている場合だってあります。 運送業者が問屋機能の一部を持ち合わせたり、小売り (とくに大手の ECサイト) が業務範囲を他業種の部分まで拡大している場合もあります。 また農業における農協や林業における森林組合のように、協同組合の形で問屋やその他業種に近い活動を行っている事業体もあります。

バッタ屋とゾッキ屋と転売屋

 これらの他に、特殊な流通経路もあります。 例えば問屋の不良在庫を二束三文で買い叩いて独自のネットワークで小売店に卸す業態を 「バッタ屋」 と呼びます。 また小売店や製造元から客として買った物品を転売する場合は前述した通り二次流通となり、ここでいう問屋経由の流通とは異なりますが、こうした流通でビジネスを行う業態は、他の顧客から嫌われがちな 「転売屋・転売ヤー」、店舗の場合はセレクトショップなどとなります。

 出版物の場合にも、特殊な販売ルートよる書籍があります。 出版社などが特定業者に在庫を卸し、古書店流通に新品や新古本として流すゾッキ本です。 書籍類は出荷前在庫や書店で売れ残ったものが回収され出版社に戻されますが、その後売れる見込みもなく、不良在庫となるか破棄することになります。 月刊誌やカレンダーなどの売れ残り (月遅れ本) などは、新刊 としてのその後の 需要 も見込めませんし、書籍類は再販制度による定価販売が前提なため、他の商品のように勝手に値引き販売することもできません。

 そこで 「ゾッキ屋」 と呼ばれる業者に在庫を引き受けてもらい、独自の古書ルートで格安の特価本 (赤本とか新古本とか見切本とか) として販売されることになります。 この場合、回収された既刊本の一部を出版社側で変えて (例えばカバーを捲き替えて) 新しい別の本として出されることもあり、戦後からしばらくの混乱期を中心に、初版や出版経緯がよくわからない謎の本などがたくさん生じています (これらを集めるマニアもかなりいます)。

問屋とマージン上乗せと 「中抜き」

 問屋に限りませんが、中間あるいは仲介業者特有の問題として、利益上乗せによる販売価格からの 「中抜き」 があります。 問屋を挟めば問屋の利益がマージンとして上乗せされますし、いくつも通せばその都度その業者の利益が上乗せされ、メーカーが出荷する際の価格 (卸売価格) と小売店でそれを買う客の払う金額 (小売価格) とが乖離します。 この差額は 「中抜き」 と呼ばれ、その差が大きければ消費者にとっては 「よくわからない業者が中抜きするせいでマージン分を見込んだ不当に高い小売価格が設定されて買わされている」 との不満も生じます。

 まだ通販などが登場・普及する前ならば、メーカーから一般客に直接販売する機会は限られ、独自の流通網を持つ問屋が全国の小売店に商品を並べる中間業者の存在意義は大きかったでしょう。 しかし通販、とくにネット通販が普及した現在は、「中間業者などいらん」 という声も大きくなっています。

 またこうした声が大きくなりがちなものに、問屋が本来の役割を担っていないのではないかとの疑念もあります。 前述したように問屋には代金の前払いや立替、金融業としての性格もありますから、資金力に乏しいメーカーが製品を開発・生産するための経済的な支援の役割も持っています。 しかしネットの普及で新しい資金調達の方法がいくつも出てきていること、また問屋が優越的な地位を利用してリスクをメーカーに押し付け、単なる金貸しになっているとの批判もあります。 こうなるとただ自分たちの利益を上乗せして商品を右に左に流すだけの中間業者の存在意義は失われてしまうでしょう。

 実際は信用取引ができない、あるいはなるべくしたくないメーカーと、できるだけ仕入れに関する手続きを簡略化し、あるいは現金を手元に置くために前払いをしたくない小売店の間に入って債権回収リスクを負ってくれる中間業者の存在には大きな価値があります。 また資金調達の方法がいろいろあると云っても、銀行に比べれば遥かに業界に精通している上に決済も早く、また個人向けの資金調達サービスはまだまだ小規模で、取り扱える金額も少額になりがちで、問屋ほど頼れる存在でもありません。 とりわけ食品などの生活必需品や日用品といった低価格の物品を、メーカーや生産者がそれぞれ小売店や消費者と一対一で直にやり取りするなどは、およそ現実的ではありません。

 「マージン」 や 「中抜き」 という言葉にはどうしても無駄なものというイメージがありますし、人材派遣や転売業者、多くの業界で行われている下請け構造などと共に、搾取するだけの嫌われ者のイメージがあります。 最近では 「直売」 や 「業販」 といった言葉で、問屋や小売店を挟まずにその分安く売りますみたいな業態が人気です。 実際に無駄だったり嫌われても仕方がない部分はありますが、リスクや責任がちゃんと取れる中間業者はビジネスや流通の潤滑油のような存在です。 流通のハブ (中心となる集積拠点) として機能することで、全体でのコスト削減や自然環境への負担の低減も行っています。 問屋本来の役割を担えるかどうか、それをメーカーや顧客に付加価値や必要経費として納得できるよう提示できるかどうかで、これからの問屋の未来が決まるのでしょう。

IT とネットの広がりとともに、問屋業界も複雑怪奇に

 外部から見てとくにわかりにくい問屋に、書籍類を取り扱う出版問屋、取次ぎの存在があります。 出版社という生産者が東京への一極集中に近い状態となっていること、再販制度など他の製品とは異なる規制があること、戦前 戦中に行われた国による情報統制政策の影響が今もあちこちに残っていること、扱う商材が 電子化 しやすく近年の ITネット の普及による影響を強く受け変化も著しい点で、「何がどうなってるのかわからない」 状況になっていたりします。

 とくに 同人誌 に関しては、同人誌専門の古書店や同人イベントへの 買い子 派遣による同人ショップ、そこから派生・発展した 書店委託販売原稿 の段階での持ち込みによる本の 印刷 や発刊まで行う委託出版、その後の ダウンロード による電子書籍販売とプラットフォームの構築と、ほんの20年弱の間に目まぐるしくそのスタイルと規模を変えています。

 同じく おたく に近いところで云えば、玩具市場における ゲーム の流通網も、栄枯盛衰を含めよくわからない状態かもしれません。 元々は玩具類の問屋から派生したゲーム関係は、主に任天堂を中心とする独自の流通 (初心会) があり、また書籍流通とも密接に関係し、コンビニエンスストアを巻き込んだり、さらにはエロゲーなど、特定の ジャンル に関しても独自の流通網があります。

 商業・同人と同様にダウンロード販売を主に行うプラットフォームも次々に立ち上がり、パソ通 のホスト局や大手通信キャリア、ハードウェアメーカー、書店、その他の小売業者、amazon といった外資も参入し、加えて1970年代から始まる同人イベントによる対面手渡し販売も1980年代から大きく成長し、1990年代からは一つの巨大市場と云って良いほどの規模となり、ニッチ なジャンルだけにまだ一定の影響力を持っています。

 このあたりは調べ始めると時間がどんどん溶けますが、自分たちになじみ深い マンガ やゲームといった コンテンツ、メーカーやクリエイター、著名実業家などが関係者やキーパーソンとして登場する業界裏話的な話やそれに触れた書籍類もあって、「ああ、あの時の謎の動きにはこんな背景が」 などとなつかしさや知的興奮を覚えるエピソードが豊富です。

 概要ですらある程度正確な形で紹介しようとすると、このサイトのたかが一項目で説明できるボリュームではありませんが、その栄枯盛衰は業界に特化した 「一代記」「現代版三国志」 のような趣もありますので、興味のある方は調べてみても面白いでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2002年8月20日/ 項目を分離しました)
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