最低最悪と呼ばれる映画 デビルマン実写版から 「デビルマン基準」
「デビルマン基準」 とは、駄作や迷作、ダメな映画を再評価するための新しい映画クオリティ測定のための基準、物差しのことです。 例えば酷いデキで最低の映画と呼ばれているような作品を、「しかし実写版デビルマンと比べたらだいぶマシじゃないのか」「デビルマンと比べたらむしろ傑作ではないか」 などと、デビルマンと比べる形で好意的に再評価したり、過去の評価の 上方修正、評価のかさ上げをするような感じです。
元ネタ はそのまんまですが、2004年10月9日に東映系で公開された特撮映画、永井豪さんの人気漫画 「デビルマン」 を実写化した映画、「デビルマン」(DEVILMAN/ 監督 那須博之/ 脚本 那須真知子) に由来します。 この映画があまりにもすさまじいクオリティだったことから、「最悪の特撮映画の単位」 として 「1デビルマン」(1DM) などと呼称が生まれたり、こうした基準が作られることになりました。
映画でやってはいけないことを集大成したようなスゴい映画
映画デビルマン公式サイト |
この映画のすごさは実際に見てみないと分からないものがありますが、主人公 「不動明」(デビルマン) 役の伊崎央登さん、「飛鳥了」(サタン) 役の伊崎右典さん (ともに FLAME) の 棒読み にも程があるすさまじい演技は、特筆すべきものがあります。
さらにストーリーを子供じみたセリフで表面的になぞるだけで説明不足のまま駆け足で突き進む意味不明な脚本と演出、登場人物への 感情移入 を許さない幼稚で安っぽい画面とカメラワーク、チグハグな CG。
さらに唐突で意味がないどころか元々寸断している流れをさらにぶった切る有名人のカメオ出演 (ボブ・サップ や KONISHIKI、小林幸子、嶋田久作など) などなど、「これが本当に 商業 映画なのか」 と、見る人を唖然とさせる内容となっていました。
この種の 「人気のある マンガ や アニメ の実写化」 は、例えどれほど素晴らしいデキとなっても、原作やアニメ版を愛する ファン から 原作レイプだ などと批判がされるものです。 また余りに酷いデキでも、それが笑えるものなら逆の意味で話題になったりもするものですが、この映画はどちらの レベル にも達せず、「ただただ不快だった」「苦痛だった」「スクリーンに映写するのが映画なら、これも映画のうちかも知れない」 状態となっていました。
また監督や脚本家、出演者らがマスコミや書籍のインタビューなどで、あまりの自画自賛をしていたこと、関わった人たちから、原作への 愛 や 「オマージュ」「リスペクト」 が感じられなかったこと (神経を逆なでする引用はあった)、総予算10億円の、いわゆる 「大作映画」 だったこともあり (テレビCMなども大量に流された)、原作ファン、特撮ファン、何より映画ファンから 「ふざけるな」 と、これ以上ないほどの辛辣な酷評を受けていました。
「デビルマン」 の前に公開された 「キャシャーン」 の評価が急上昇
この実写版 「デビルマン」 の半年ほど前にあたる2004年4月24日に松竹系で公開された映画に、同じように往年の名作を実写化して制作された特撮映画、「キャシャーン」(CASSHERN/ 監督 紀里谷和明/ 脚本 紀里谷和明 菅正太郎 佐藤大) がありました。
こちらも原作とのあまりの違い、独自解釈から旧作のファンから痛烈な批判を浴びた作品でしたが (これはこれで評価する人もいた)、キャシャーンを全く寄せ付けないインパクトを持つ 「デビルマン」 の登場により、「これに比べたらずっとよかった」「デビルマンを見た後だとむしろ傑作に見える」 などと再評価される結果に (興行的にも完全に赤字だったデビルマンに比べるとずっと健闘)。
これがひとつのきっかけとなり、「デビルマン基準」 という言葉が 掲示板 2ちゃんねる の 「映画一般・8mm@2ch掲示板」、本スレッド (デビルマン専用の スレッド) に登場。 その後盛り上がり、10月20日に 「あらゆる映画をデビルマン基準で測るスレ」 も登場。 広まることになりました。 ちなみにこの時のデビルマンスレッドは、「この映画は酷い、酷すぎる」 で参加者の意見が驚くほど一致していて、「2ちゃんねるでもっとも参加者の心がひとつになったスレッド」 などと呼ばれていました。
アニメやマンガの実写化は数あれど… DEVILMAN は桁外れ
ちなみに 筆者 は原作の 「デビルマン」 もアニメ版も リアルタイム で見ていた世代ですし、この実写版 「デビルマン」 ももちろん見ていますが、なんというか、つまらない映画を見ると退屈で眠くなることがありますが、この映画は眠くなるどころか、苦痛と怒りで異常なほどテンションがあがり、何故か涙も出てくるような不思議な感想を持ちました。 2004年はアニメの実写化映画が他にもいくつもあった年で、いずれもけっこうな低評価だったりもしたんですが、正直、本当にこの映画は酷かったです。
それにしても、この映画が作られた前年2003年10月から実写版の 「美少女戦士セーラームーン」 のドラマもやっていましたが、同じ東映でなんでここまで違うんでしょうね。 筆者がセラムンファンだという点を差し引いても、後半ちょっとテンションが変わって辛かったものの、全体としてかなりクオリティが高く (とくに前半は美少女ものという特殊条件がありながら、特撮ものとしても十分に及第点)、作品としても面白かったし魅力的だったのになぁ…。
なお那須夫妻コンビの監督・脚本による作品で有名なところでは、1985年から公開された 「ビー・バップ・ハイスクール」 があります。 元々原作となるマンガの人気が高かったこともありますが、こちらの作品については興行的に大成功し、作品自体も極めて高い評価を得ている人気シリーズとなっています。 実際作品自体も複数回視聴に耐えるほど面白く、見せ場も豊富で、ヤンキーなどにまるで興味のない同時公開作品目当てで観に行った女性客を魅了したなんてことも筆者の周りではありました。 マンガ原作の映画を大成功させた数少ない監督脚本コンビであり、実力に対する高い評価は決して間違っていません。
映画の失敗の責任を誰に帰すべきかと云えば、それは間違いなくプロデューサーになると思うのですが、公開前に宣伝のためにメディアに登場した那須夫妻が戦犯としてクローズアップされる結果となったのは、ある意味で気の毒だったとも云えます。 作品傾向と監督&脚本の食い合わせの悪さが 不幸 の始まりだったのでしょう。
1ガンドレス、1モッコス…異常な低クオリティから生じたネガティブ単位
似たような経緯で ネガティブ な基準となったものに、ヤシガニアニメ のひとつ、劇場版アニメ作品の 「ガンドレス」(GUNDRESS/ 3月20日/ 日活/ 原作/ 天沢彰/ 士郎正宗/ サンクチュアリ/ スタジオジュニオ) を由来とする 「1ガンドレス」(酷いアニメを表す単位) があります。
またフィギュアの世界では、ナムコの ゲーム、「ゼノサーガ エピソードII 善悪の彼岸」(2004年6月24日発売/ モノリスソフト制作/ フィギュア制作はエンターブレイン) の 限定 版 「プレミアムボックス」 に同梱されていたものすごいクオリティのフィギュア、「KOS-MOS」 を由来とする 1モッコス なんて 「単位」 もあります。
出来の悪い映画が出るたび蒸し返される実写版デビルマン
実写版デビルマンが 「駄作の基準」 となったことで、その後に登場した出来の悪い作品、とりわけマンガ原作だったりオタクに近い ジャンル の駄作の話題では同作品が繰り返し蒸し返され、ある種の ネタ や伝説化している部分もあります。 とくに2010年以降は SNS の利用者が増え、こうした駄作映画への論評はそちらが主なステージとなっていることも影響し、むしろ悪名はそれ以降に広く一般化したといって良いでしょう。
例えば大人気マンガの実写版となった 「進撃の巨人」(2015年) や 「テラフォーマーズ」(2016年)、オタクの本業の一つでもある特撮っぽいジャンルの 「大怪獣のあとしまつ」(2022年) では、それぞれの出来の悪さを実写版デビルマンと比較する形で表現し、「第二の実写版デビルマン」「令和の実写版デビルマン」 などと呼んで罵倒する意見がネットであふれることとなりました。
とりわけ 「進撃の巨人」(「ATTACK ON TITAN」「ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」 の前後2部構成) は、実写版の前に制作されたアニメ版があまりに素晴らしい出来で大ヒットし、それと引き比べられがちだったこと、映画評論家である町山智浩さんの脚本ということである種の好奇の目が向けられた部分もありますが、実際内容的にもかなり厳しいものとなっていて、揶揄・罵倒の対象となったり、後にはほとんど 黒歴史 の扱いになっているといって良いでしょう。
また原作改変がひど過ぎて評価が地を這った 「テラフォーマーズ」 もデビルマンに続く駄作として名を連ねています。 それぞれの作品の何が悪かったかについては様々意見があると思いますが、おおむねデビルマンが酷評されたダメなポイントを繰り返していると云えます (ここで細かい話はしませんが)。
一方、マンガなどの原作実写化ではない 「大怪獣のあとしまつ」 も (筆者未見のため内容の評価はしません)、そもそも テーマ 自体がありきたりな上、見た人の話から悪評が広がり SNS のトレンドに度々登場するなど悪い話だけが独り歩きする状態となっています。 一部では 「懲役2時間」 との評価も。
また悪評が立った後にプロデューサーや監督が自己弁護的な コメント やインタビューを早々に公開したこと、そこにさして特撮や怪獣ものに熱意や興味が感じられない内容があったこと (そもそも怪獣の死体の後始末を 「史上初めて描く」 とか云われても、もう本当によくあるネタなんですよ…)、さらには観客に意図が伝わらないことを嘆くような話もあり、前評判とは無関係に楽しんだファンからも失望の声が出てくるなど、かなり辛い展開となっています。