われ何言うとるんや、お前らが徹夜したら刷れるやろが! 「極道入稿」
「極道入稿」 とは、同人誌 の制作を 印刷所 に頼む際、印刷所が定めた 締め切り を守らず守れず、場合によってはデッドライン (最終的な限界) やそれを越えるタイミングで 原稿 を提出 (入稿) することです。 特急料金や超特急料金といった特別な超短納期・割増料金を伴うサービスでの入稿を指すこともあります。
印刷業者によって締め切りの 設定 (入稿日) や考え方は様々ですし、デッドラインも印刷所の設備、印刷 の量や内容、制作する時期 (繁忙期か閑散期か) によって異なります。 しかしおおむね イベント の3〜4日前 (72〜96時間前) あたりがギリギリの最終ラインと考えられ (状況によります! 3日あれば間に合うかもしれないという目安ではありません!)、このあたりを攻める入稿は極道入稿とされるようです。
締め切りをしっかり守って入稿することを指す対義語は 「堅気入稿」 と呼びますが、そもそも締め切りを守るのが当たり前な上にほとんどの サークル は締め切り前に入稿を済ませるので、ことさら堅気入稿という言葉を使うケースは少ないかも知れません。 また極道入稿の類語として 「ブラック入稿」(迷惑な上に印刷所の職員にブラックな仕事を押し付けることから)、その対義語として 「ホワイト入稿」 という呼び方もあります。
極道と同じような意味で使われる言葉には、任侠とかヤクザ、暴力団、反社会的勢力 (反社) などがありますが、単に 非道・凶悪・無慈悲 の比喩として極道を使っているだけなので、関連性はありません。 比喩ではなくそのまま 「非道入稿」「凶悪入稿」 と呼ぶこともありますし、単に 「締め切り破り入稿」 と呼ぶこともあります。 また極道入稿を繰り返すサークルは極道サークルとなります。
一体いつまでなら間に合うのか?
同人誌を作って完成した本が手元 (あるいは イベント会場) に届くまでに、どのくらいの日数 (というか時間) が必要でしょうか。 作業フローとしては原稿から印刷版を作って印刷を行い、製本して同人誌として完成、それを梱包して配送するまでとなりますが、他のサークルからの発注もあり、とりわけ コミケ や シティ といった大規模な 同人イベント の直前は大変忙しい時期 (繁忙期) でもあり、入稿から全てのフローを終えるまでの時間は流動的な部分があります。
こうした混雑を避けるため、印刷所が設定した締め切りより早く入稿したり、時期をずらす制作では割安な料金プラン (「早割」 みたいな名前が多い) が用意されている場合もあります。 またコミケ合わせの本がコミケ当日に間に合わなければ大問題となりますから、一般的な印刷所は不測の事態に備え、ある程度の予備日をあらかじめ設けているものです。
これは逆に云えば、とくに大きな トラブル もなく迎えた大型イベントの直前の直前は、むしろ印刷機や製本機などがフル回転する時期は過ぎていて、同人誌作りがひと段落するタイミングもあるという意味でもあります。 極道入稿は意図するしないに関わらず結果的にこのわずかな空白的時期を狙いすましたような入稿となり、「お前ら休む暇なんかねえぞ、さっさとうちの同人誌作れや!」「なに甘ったるいこと言うとるんや、銭 (割増料金) は払う言うとるやないか! 徹夜 で仕事したらできるやないか!」 みたいな感じになってしまうのが迷惑なところです。
入稿をどこまで伸ばせるのかは前述した印刷所の設備や機材、受注数、あるいはサークルと印刷所との関係にもよりますが、刷り終えても印刷インキが乾くまでに時間がかかりますし、乱丁・落丁・製本ミスのチェックだって必要ですし、トラックで配送する時間など 「短縮が難しい時間」 が存在します。 これらを切り詰めると印刷の美しさとか仕上がり品質が悪くなったり、最悪の最悪だとイベントに間に合わないことにもなります。 また間に合っても希望する全ての発注 部数 は作りきれず、当日は一部のみ、残りは後日分納みたいなことになることもあります。
ある程度までなら多少の品質低下やリスクをサークル側が負うとの 同意 の元で特急料金や超特急料金、イレギュラーな個別対応などによるギリギリの入稿を認めているところもありますが、基本的には印刷所は嫌がるものです。 乱丁・落丁・製本ミスが生じた本を納品・頒布 したら、いくら極道入稿をしたサークルに責任があるのだとしても印刷所の評価だって下がってしまうでしょうし、無理して作業してサークル側から逆恨みされて SNS で 晒され でもしたら踏んだり蹴ったりです。
残りが日数ではなく時間 (あと60時間とか残り50時間とか) の レベル となると、ケースバイケース・個別の折衝と云うことになりますが (フルカラーの 表紙 とか、印刷工程に時間がかかる部分は先に入稿してないと話にならなかったりしますが)、いずれにせよ、自分が締め切りを守れなかったことで多くの人間に迷惑をかけてしまうことになるという意識は持っておきたいものです。 まあ偉そうなことを云う資格を 筆者 は 1ミリ も持っていませんが…。
内容によっては2日でどうにかとか、配送ではなく現地受け取り (深夜に車を飛ばして印刷所に取りに行く) なら何とかとか、色々伝説めいた話はありますが、くれぐれも人様に迷惑をかけないよう頑張り、極道入稿の結果は自己責任で受け止めるようにしましょう…。