売れ筋ラノベを量産…? 「カテゴリーエラー」
「カテゴリーエラー」 とは、一般小説や ライトノベル (ラノベ) の世界で新人賞などに応募する際、募集要項や求める作品傾向とは異なる作品やその内容を表す言葉です。 略して 「カテエラ」 と呼ぶ場合もあります。
例えば大人向けミステリーの長編小説を募る新人賞に、子供向けのドタバタ喜劇の短編小説を応募したら、それがどれだけ文学的に優れ面白い作品であっても、守るべき カテゴリ (範囲、分類) に反していることになり、「この賞には合っていない」「カテゴリーエラーで失格」(落選、選考対象外) となります。
単純にページ数や添付資料の有無など、守るべき募集要項や規約を満たしていない、募集する作品 テーマ や条件にあっていないという意味もありますが、実際はもっと細かい分類がされる場合もあります。 それらは募集の段階で広く知らせる場合もあれば、「愛をテーマとした作品」 のような、あまりに大雑把で分かりにくい場合もあります (応募後、カテエラを理由に落とされてやっとわかる)。
もっとも、あまりに酷い作品を落とす際、内容が稚拙だ文章がおかしいなどと説明しても仕方がない場合に、この言葉が無難で便利な言葉として多用されているきらいはあります。 落とされる方も、実力や才能の不足で落とされたと考えるより、応募先を間違えただけだ…と考えるとだいぶ慰められるのかも知れません。
また逆に、これから 投稿 しようと考えている人たちの間で、要項や規約、条件をクリアした上で、過去の投稿作品の入選・落選の作品傾向をにらみ、「選考が不利になる要素」 をカテエラという場合もあります。 その場合は細かい作中の 設定 (誰が 主人公 か、SFやホラー、ミステリなど、どんな要素がある作品か) にまで、カテエラの考え方が反映される場合もありますが、あくまで外からの見立てであり、単なる思い込みや杞憂の場合もあります。
難しい 「カテエラ」 の回避
小説家、ラノベ作家を目指すものにとって、最初に難しく感じるのが、このカテエラの問題かも知れません。 ライトノベルなら新人賞を 主催 しているライトノベル文庫の求める作品傾向 (レーベルカラー) と当然ながら密接に関係していて、そのラノベ文庫で人気があったり売れ筋となっている作品の傾向 (それは、読者 がその文庫に求めている作品傾向でもある) が、やはり最重要視されます。
例えばそれが、男性主人公で ファンタジー の要素がある明るいギャグタッチの作品であった場合などは、それに全く合ってない内容の作品は選考上、かなり不利な扱いを受ける場合もあります (カテエラ判断されるかどうかはともかく)。 ストーリーだけでなく、テーマや文体が著しく異なるのも同じ扱いでしょう。
こちらも事細かに指示している場合もあれば、「当文庫の読者に相応しい作品」 のような表現もありますし、その文庫のラインナップくらいは頭に入っていて傾向が読み取れないと、せっかくの自分の作品が無駄になってしまう場合もあるでしょう (他文庫に再度応募すればいいだけの話ではありますが)。 なお自分のカテゴリや応募先を代えてカテゴリを移動することは、「カテゴリーチェンジ」(カテチェン) などと呼んだりします。
似たような作品ばかりになる危険性も
あまりに売れ筋のカテゴリーばかりを追求しすぎると、多様性が失われ同じような作品の量産につながってしまいますし、応募要項に記載されていない細かい作中設定や作品ジャンルそれ自体は選考に影響を与えないとする文庫や編集、選考委員もいます。
しかし 商業 の世界では 「売れない = 読者からの支持がない」 でもありますし、過去の経験からどう考えても売れそうにない設定やジャンルの応募作品だった場合、多数のラノベ文庫が乱立している状況で文庫としての個性を保ち、その文庫を支持してくれている読者の期待を裏切らないようにするためには、こうした選別はやむを得ない部分もあります。
ただし 作品ジャンル やテーマが複雑に 絡み 合い、カテゴリやジャンルに合致しているかどうかの判断が簡単にはつかない場合もあります。 ひとくちにSFだ、オカルトだといっても、実際の表現には様々な描写の仕方、ストーリーがあります。 また場合によっては物語が面白い、文章力や表現力が高く洗練されている、読者からの支持が得られる魅力があるという物書きとしての 「才能」 や 「技術」 が優先され、いくらかカテゴリーエラーが生じていても、それを超えて選ばれる場合もあります (他の相応しい文庫の賞に推薦される場合もあります)。
またレーベルごとの特徴や強み、個別の作品ジャンルやカテゴリすらも超えるような、ラノベ業界全体を巻き込むような大きな流行やブーム (例えばSFブームとか異世界ブームとか) もありますし、売れ筋を追う中でレーベルごとのカラーが似通ってくる部分はあります。 ただしあくまでその文庫で刊行するのを目的としている賞である限り、読者層を無視した選ばれ方は、まずされないのが現実ではあります。 同じ食材とはいえ、どんなに素晴らしい肉であっても、八百屋が仕入れないのと同じ道理です。
漫画家と編集者との関係に近いラノベの世界
なお 絵師 による イラスト や挿絵がほぼ必須のラノベの場合、作品に登場し重要な役割を果たす主要な キャラクター (主人公や ヒロイン) の魅力のあるなし、容姿や性格の傾向 (俗にいう 萌え要素 など) は極めて重要です。 2000年代に一世を風靡した ツインテール や ツンデレ や ヤンデレ、1980年代から主流となっている ロリ などもそうですが、読者が求めている傾向や性格とあまりに乖離したキャラ造形は、それだけで選考上は不利になるケースも少なくありません。
このあたりは、文庫やそこにいる編集者の姿勢次第ではありますが、晴れて新人賞に入賞しその文庫から作品を刊行となったら、文庫や編集者との二人三脚で作品を作ってゆく訳ですから、商業でやってゆくつもりなのなら、まるっきり無視できるものでもありません。 「カテゴライズされていない斬新なキャラで新しい潮流を作る」 などは、デビュー前の ワナビ が商業作家として食べてゆくためには、遠い先のお話なのが現実でしょう。
同人の世界では、好みが細分化する中で、違いもより明確に
なおこうした考え方は、同人 における SS などでも当然あります。 同人の場合には既存作品の 二次創作 が多いのですが、その場合には登場するキャラの カップリング の組み合わせや方向性などがとても重要視され、組み合わせるキャラクターが同じでも、受け と 攻め の方向性が違うだけで、「もう無理」 どころか 「神経を疑う」 などと 叩かれ、ほとんど 地雷 のような扱いを受ける状況にもなりがちです。
ラノベの世界以外では、あまり 「カテゴリーエラー」 という言葉は使いませんが (普通はジャンルが違う、「ジャンル違い」 と呼びます)、個々人の 趣味 が色濃く反映し妥協の余地のないのが創作の世界。 ほんのちょっと違うだけでまるっきりダメになるのは難しいですね。
ただし商業作家として 「ご飯を食べなくてはならない」 なんて状況に置かれてない趣味の同人ならば、自己責任でやりたいことを自由にできる楽しみはあります。 そもそも既存大手出版社から無視されたり軽んじられていたジャンルやカテゴリ、それ以前には存在しなかった新しいジャンルなどが、同人の世界から盛り上がり、ついには商業の、それもメジャーな位置で売れ筋ジャンルになるなどは、オタク文化としての同人以前に、伝統的な文芸同人の世界でもたくさんあります。
創作という営みを、商業の世界と趣味の世界とが両輪となって補完しあいながら少しずつ発展させて行くのが、たぶんあるべき健全な姿なのでしょうね。