言いたいことがあるんだよ!… 「ガチ恋口上」
「ガチ恋口上」 とは、アイドルのライブやコンサートで ファン らが送る声援・コールの一つのスタイルです。 ガチ恋 とは、推し のアイドルに ガチ (本気) で恋しているとの意味のドルオタ (アイドル オタク) の用語ですが、楽曲で歌詞がない間奏部分などに、曲のテンポに合わせてやたら長い文章・熱烈な告白文やラブレターのようなコールを入れるものです。 「アイドルコール」 と呼ぶこともあります。
2010年代冒頭あたりから、いわゆる地下アイドルと呼ばれる女性アイドル グループ の熱心なファンらが行い始めたもので、2013年前後にはファンらによって ネット でも紹介され、SNS でも話題となりました。 口上にはいくつかのパターンがあるものの、もっとも有名なのはガチ恋口上という言葉が使われるようになった発端とも云える 「言いたいことがあるんだよ!」 から始まるものでしょう。
「ガチ恋口上」 のコール例
言いたいことがあるんだよ!
やっぱ〇〇ちゃんはかわいいよ!
好き好き大好きやっぱ好き!
やっと見つけたお姫様!
俺が生まれてきた理由!
それはお前に出会うため!
俺と一緒に人生歩もう!
世界で一番愛してる!
ア・イ・シ・テ・ルーーー!
基本はこのパターンですが、「お姫様」 が 「女の子」 になったり、「お前」 が名前になったり、「世界で一番愛してる!」 が 「結婚 しようよ!」 になるなどの小さな違いがあったり、出だし以外のかなりの部分が改変されているものもあります。 その後男性アイドルグループに対する女性ファンらにも伝播し、様々な口上が生まれています。
いずれにせよ短いコールや MIX と云うより文字通り口上であり、発動から全てを終えるまでに相当の時間がかかります。 従ってコールする場合は長い間奏が必要など、かなり楽曲を選ぶものだと云えます。 もちろん過不足なく時間内にすっきり収めるため、事前のシミュレーションは欠かせません。 また1回のライブでガチ恋口上ができる曲がやたら多かった場合、全ての曲でやるのも人によってはちょっとうるさ過ぎると感じるかも知れません。 場合によってはどの曲で発動するのかも重要です (普通は 定番 となる楽曲が決まっています)。
こうした長文系の口上コールは昔からあり、まだネットもなく情報の 共有 が難しい時代、アイドル親衛隊と呼ばれるような暴走族風の 特攻服 を着こんだ若者が仲間と集まってコールの練習を行っている光景は、昭和の竹の子族の頃に原宿で見たことがあります w 基本的にはコンサート会場などで知り合った者同士で集まりますが、雑誌の読者コーナーで募っているようなケースもあります。 現在はネットのコミュニティもたくさんありますし、カラオケボックスなど大人数で大声を出せる場所が格段に増えているので、中心となるファンらがそこで仲間を募ったり練習をしたり、ネットで口上を覚えて 現場 の空気に合わせて行うファン (沸きオタ) もいるようです。
なお口上に別のファンが合いの手を入れることもあります。 例えば 「言いたいことがあるんだよ!」 などの各フレーズの後に続けて 「なになに?」 と叫ぶなどです。 盛り上がるライブでは、アイドルの失敗や 運営 ミスといった ネガティブ な要素以外の全てに大げさで好意的・ポジティブ なリアクションを返すのが お約束 なので、これもコールや口上が好きなファンにとっては、気分やテンションがますます上がり、会場の一体感を覚えるものとなっています。
コールや口上は時代とともに、アーティストとともに
ちなみに昭和や平成前半の口上系のコールはもう少し短く、例えば
ラブリー・プリティー・キューティー・〇〇!
〇・〇・〇・〇 (名前を ローマ字 でアルファベット単独読み上げ)・〇〇!
僕らの〇〇姫ナンバーワン!
といった MIX のアレンジバージョン的な形が多かったかも知れません。 当時はテレビで観客ありの歌番組や歌のあるバラエティ番組が週に何本もあり、そうした場では楽曲の1番部分のみ歌唱で間奏もイントロ後に短く入る程度だったので、あまり長いコールは使いづらかったのですね (基本的に MIX しかできない)。 またテレビ番組用とコンサート用とで同じ楽曲でも複数のコールを使い分けるような運用が多かったです。 声が出せないライブやミュージカルといった舞台ものでは、手拍子によるコールもありました。 もちろんアーティストによっては、これらのコールもまだまだ現役で使われています。
また特定のアイドルやアーティスト、楽曲に由来・紐づいたコールもたくさんあります。 中でも有名なのは、人気声優・歌手 田村ゆかりさん (ゆかりん) の楽曲コールが 元ネタ で、その汎用性の高さから ネットスラング としても使われる 「世界一 かわいいよっ!!」 あたりでしょうか。
なおどんなアーティストの楽曲でもコールは存在しうるものですが、シンプルで簡単なものもあれば、非常に難しい楽曲もあります。 めちゃくちゃ盛り上がるアップテンポの曲なのに間奏が短かったり、1番と2番で内容が異なったり、グループアーティストの全体曲のように多数の歌い手がどんどん入れ替わるようなものは、難しいコールになりがちです。 それぞれのアーティストごとに 「最難コール曲」 があり、親衛隊やら私設の現場系の FC などでは、「楽曲〇〇のコールが完璧にできること」 といった よく訓練された ことを示す条件を参加希望者に課している場合もあります。
苦手な人、嫌いな人も少なくない過度な応援や 「ガチ恋口上」
基本的にアイドルのライブに応援やコールはつきものですが、やりすぎると周囲の迷惑になりますし、苦手な人、強く嫌っている人も少なくありません。 とくに仲間同士で示し合わせて行う周囲のファンを威圧するようなこれ見よがしのコールや掛け声は否定的に感じられるケースがほとんどです。 所かまわず極端に明るいペンライトやサイリウムを振り回す人とか、過剰な手拍子やジャンプ、踊りを行うといった オタ芸 のやり過ぎ部分も含め、同じファンだけでなく、アイドルの事務所や イベント の 運営側 から控えるように 告知 されたり、明確に禁止されるようなケースもあります。
ステージ上にいるアイドルが本当に好きで応援しているのか、それとも単に目立ったりストレス解消に騒ぎたいだけなのかは分かるようで分からないものですが (とはいえ、名指しか名指しに近い形でライブの 出禁 になっているような迷惑な有名人やグループもいますし、何度も現場に通えば何となくわかってもきますが)、どちらにせよライブなどの参加注意に禁止事項があるのなら、それに従うようにしましょう。
やるなら覚悟を決めてやるのが大切かもしれない 「ガチ恋口上」
口上を行う人が多数いる現場ならともかく、小規模なライブや映画館などで行われる声出し応援が可能なライビュ (応援上映ライブビューイング) などでは、当日の参加状態によっては意図せずに単独 (単騎) での口上になってしまう場合もあります。
例えばライビュの場合、各地域ごとに熱心なファンが集う映画館はおおむね決まっていて、常連客同士による交流や結束、ライブ会場に劇場名有志一同名で花輪を送るなどといった活動もあったりするのですが、現場・盛り上がる劇場のライビュともにチケットが取れず、やや 地味 な映画館に一人や少人数で飛び入り参戦すると、しばしばこうした状況が起こります。 その場合はケースバイケースではあるものの、始めたからには最後まで淀みなく完遂したいものです。
途中で間違えたり噛んだりして中断したり、自分単騎・ソロだと分かって恥ずかしさから尻すぼみになると逆にかっこ悪いですし、観客全体のテンションも下がりますし、何より本人もいたたまれないでしょう。 また当たり前の話ですが、テンポがずれてアイドルの歌に被さったり被りそうになるなどは論外です。
ただまぁ、あまりに場違いだと感じたら、途中で引き返すのも賢明で勇気ある判断です。 苦手な人は本当に苦手なものですし、家虎 (イエッタイガー!) をはじめ過度なコールやMIX、常連客による仕切りを嫌って過疎った映画館のライビュを選んでわざわざ来る人もいますから。 本人が目立ちたい、ストレス解消したいと思ってやるのならともかく、場を盛り上げたい、一体感を作りたいと思ってやるのなら、その前提となる場の空気くらいはしっかり観察し、序盤に把握しておきたいものです。