「おたく」 の話をするなら日本語が一番便利…?「公用語」
「公用語」 とは公に使われる言語のこと、一般的にはその国でもっともよく使われている言語や、国の決まりで公用語として定められた言語を指す言葉です。
一方、世界中で広く使われている言葉である英語は、世界共通語や公用語と呼ばれることが多いでしょう。 また国や地域とは無関係に、特定の用途や ジャンル によっては決まった言語が選ばれがちなことがあります。 例えば医療関係用語ならドイツ語、外交やヨーロッパ文化、西洋料理ならフランス語、哲学や教養や古典文化ならラテン語などです。 日本ならば歴史や思想の分野で中国語や漢文が欠かせないこともあるでしょう。 これらはその言語由来の言葉が数多く残り、公的な書類 (例えば医療ならカルテ、外交なら調印文書など) をそれぞれの国の言葉とは別にその言語でも記すなど大きな影響を与えるものであり、俗な言い回しで公用語と呼ばれることもあります。
おたく や 腐女子、同人 といったジャンル (ACG) の話題の場合、日本人はあまり意識しませんが、海外の人たちにとっては日本語がそれに該当するケースが多いようです。 実際、おたく用語 が日本語のまま海外で使われたり、日本の作品を原語で楽しむために日本語を学ぶ人も多く、様々な国や言語の人が集まる大規模な 同人イベント やオタク系のコンベンションでは、最初は実質的な世界共通語である英語で話しているものの、徐々に日本語になるといった話はわりと聞くものです。
また ツイッター といった SNS で、外国人の外国語話者が日本語でつぶやき、それに別の外国人の外国語話者が日本語で返答するといった風景は、ちょくちょく観測できたりもします。 こうした状況は日本人がひいき目で見ているからそう感じるだけ、あるいは無意識化での選別や誇張もあるのでしょうが、そもそも日本生まれの文化や コンテンツ の話題では日本語をそのまま使うのが便利なのは当然でもあり、これを称して 「日本語はおたく世界の公用語」「マンガアニメのラテン語」 といった言い回しをすることもあります。
日本語は日本ローカルな言語ながら、それなりの存在感
言語は様々なものがありますが、話者数で云えば英語が13億4,800万人でトップ、次いで中国語、ヒンディー語、スペイン語などが続き、日本語話者は13位の1億2,600万人となっています (アメリカの金融系メディア InsiderMonkey/ 2023年調査)。 地続き・同一民族の分散などにより複数の国にまたがる言語圏を持つ言葉、植民地を多数持っていた国の言葉や人口が多い国の言葉が上位なのは当たり前として、日本語の話者数はほとんど日本の人口と同じであり、かなりローカル・マイナー な言葉でありつつも、人口の多さからそれなりの規模を維持しているのがうかがえます。
一方で、特定の言語で記されたり描かれた書籍や映像作品などを言語資本と呼びますが、これについては信頼できる調査結果が見当たらないものの、日本の識字率や機能的識字率の高さ、出版産業の大きさ、活発な翻訳、ドメスティックな書籍類や映像作品の多さを見るに、量的に国や話者数の規模を超える豊かさが日本語にはあると云えそうです。 古今東西の世界的名著はその多くが日本語版も出ていますし、読者人口や市場規模が現在でもそこそこあるので、しばらくは新しい書籍類も翻訳出版されることが多いでしょう。
豊かな言語資本があれば、結果的に ニッチ なジャンルでもある程度は必要十分な量的規模を持てる可能性があります。 それが一定の レベル を超えると文化的再生産や深化も可能となり、質的にも豊かになるでしょう。 オタコンテンツのみならず、世界中のありとあらゆる名作やベストセラーの多くが母国語でそのまま読める、楽しめる、それを土台に母国人による母国語での新しい作品も創られると云うのは、とても恵まれたことです。
日本旅の思い出に、日本人の発する生萌えや生推しを持ち帰って欲しい
ちなみに 筆者 は 引きこもり のくせに外では知らない人とわりとフランクに話ができる方なんですが、言葉から中国人や韓国人っぽい男子や男女混成 グループ などが自分の知っているコンテンツのキーホルダーとか寝そべりを身に着けて 秋葉原 あたりを歩いている姿を目撃すると、ついリアクションを返したくなって迷惑にならない範囲で話しかけたりします (さすがに誤解や異国での不要な緊張感を与えないように、一人だけとか女性だけのグループは スルー します…)。
わざわざオタ用事で秋葉原に来るような人たちはだいたい日本の クリティカル なオタク用語は理解できるようで、あとはインチキ英語と拙い中国語韓国語と身振り手振りでそれなりに意思疎通はできたりします。 「アンニョンハセヨー! ユー○○ 推し? ベリGOOD! 萌え萌え」 などと云いつつこちらが 装備 している同じ キャラ の アクセ とか見せて 「ユーアーフレンド! プリズエンジョイ Japan」 あたりでだいたい先方から握手求められて場合によってはそのまま自販機で 120円 したり記念写真を撮るなどはわりと何度か経験があります。
この際、あえて萌えとか推しといった言葉を使うのは、あたしたち日本人が欧米人らのオーマイガとか中国人のアイヤー韓国人のアイゴーロシア人のハラショーインド人のナマステなどを生で聞くと何だか嬉しくてテンション上がるように、向こうの人も日本人が発する生萌えや生推しを聞くと喜んでくれるかなと思うからなのですが、感極まって 「Oh! Japanese moe!moe!」「real!」 とか連呼する人もたまにいます。
日本とは外交や歴史問題で何かと トラブル が起こりがちな中国韓国ですが、現地の日本製コンテンツの楽しみ方などを見ると、日本人の自分たちと同じ、あるいはより洗練されたり高い熱量を感じることもあります。 外国の 俺ら みたいな状況です。 例えば日本アニメ映画の応援上映会の様子などを見ると、日本の アニソン を日本語で合唱しつつ振り付けまでマスターして踊りもこなしがら、さらにコールや オタ芸 もこなすと云う 訓練ぶり で、「あー、この人とは絶対親友になれるわ」 みたいな人が大勢います。
筆者も好きな中国製・韓国製のコンテンツやキャラ・タレントはありますが、ここまでの情熱は傾けられず、申し訳ないような悔しいような気もします。 日本人でも若い世代は中国や韓国の同人と相互乗り入れしていて、それぞれの 同人用語 の翻訳活動なども盛んになっています。 あたしももう少し若ければなぁ…とうらやましく思うこともあります。
文化交流の部分くらいは、お互いを尊重して仲良くできると良いですね。 本当に。