本命に見えて実は当て馬… 「負けヒロイン」
「負けヒロイン」 とは、複数の ヒロイン (主に女性の重要な キャラ) が登場する恋愛を テーマ とした創作物で、最終的に 主人公 と結ばれないまま終わるヒロイン、他のヒロインとの恋愛競争に敗れてしまう 不憫・不遇なヒロインのことです。 似た言葉として 「当て馬」 や 「かませ犬」「対抗」 があり、対義語は 「勝ちヒロイン」「本命」 です。
他のヒロインに負けてしまうとはいえ、「負けヒロイン」 とまで呼ばれる場合は、物語の途中までは本命もしくはその最有力候補として扱われ、時として主人公と結ばれる勝ちヒロインよりも愛らしく健気で魅力的な存在として描かれる場合が少なくありません。 勝ちヒロインに対して明らかに劣ったキャラでは、最後に選ばれなくとも 「当たり前の結果」 で終わってしまうからで、「え?このヒロインが本命じゃないの?」 という意外性があるからこそ、見るものに強い印象を与え、「負けヒロイン」 という独特な ニュアンス を感じさせることができるのでしょう。
なお負けヒロインを魅力的に描く中で、幼馴染 や 許婚 といった殺傷力の高い 萌え属性 が付加価値として設けられたり、頭や性格、容姿といった スペック も高く設定され、しばしば 萌え要素 が渋滞することもあります (逆に勝ちヒロインは転校してくるなどして突然現れた個性的な女性、いわゆる おもしれー女 だったり)。 場合によっては性的な魅力を振りまいて作品全体に対するアイキャッチ要素、いわゆる 「お色気要員・エロ要員」 として用いられる場合もあります。
しかしやりすぎるとあざとさや不自然さが感じられ、むしろその後の 「負け」 が見えたりもします。 それを フラグ や伏線として利用する作品もありますが、一般的にはそれとなく勝ちヒロインと同等以上か、より明確に優れた存在 (ただし後で欠点が明らかになる) として描かれる場合が多いかも知れません。 ただし人の好みは様々なので、バランスはとても難しいでしょう。
「負けヒロイン」 が余りに健気だと、主人公や勝ちヒロイン、作者に怒りがわくことも
わざわざ負けヒロインを設定するというのは、読者 や視聴者に 「意外な展開」「予想外の結末」 を、その強弱はともかく与えるためのものだったりもしますから、前述の通り極めて魅力的に描かれるケースが多いでしょう。 あるいは本命が主人公と争ったり本命の嫌な部分をあえて作品内で提示して、相対的に負けヒロインが良く見えるよう落差をつけることもあります。
このような状況では、負けヒロインこそが本命であるべきだとの感想を持つ ファン も現れますし、それなのに最終的に本命に負け主人公から選ばれない不遇の結末、あるいはそうした結末の違和感をなくすために負けヒロインの悪い部分の提示 (下げ描写) などが後半に後付けのように行われると、そのキャラを 推して いるファンの怒りを買う場合もあります。 とりわけ危険なのは、勝ちヒロインが主人公と結ばれた後、負けヒロインが別の男性 (例えば主人公のライバル) と結びつくようなパターンです。 これは負けヒロインを推していたファンからすると、二重の裏切りです。
実際、人気のある マンガ や アニメ、とりわけ ラノベ といった作品にこうした手法による 「どんでん返し」 を狙った内容は少なくなく、物語の序盤から負けヒロインを応援していたファンからすると 「ふざけるな」 との怒りが主人公や勝ちヒロイン、演じた役者や声優、さらにはその作品の 作者 にまで及ぶことがあります (それにまつわる事件なども起こっています)。
こうしたファンは、それまで熱心に応援していた熱意が 反転 して強烈な アンチ となり、事件を起こしたり ネット で ヘイト をまき散らす場合もありますから、例え作品や作品の物語は作者が創り作者のものなのだとしても、一定の配慮があって当然だとの見方をする場合もあります。 まるで一部のファンへの嫌がらせや当てこすりのように見えるほどの負けヒロイン下げ描写は、批判されても仕方がない部分はあります。
作者も人間ですから、自分の作品の キャラに対する好き嫌い も当然あるのでしょうが、「物語上の必然性」 があまり感じられない特定キャラへの過度な持ち上げ、そのライバルへの過度の 不幸 表現は、「作者のエゴ」「えこひいきだ」 と思われ人格ごと否定されがちな状況となってきており、人気商売である以上は難しくなってきている印象があります。 場合によっては勝ち負けをはっきりさせず、将来の波乱を暗示しつつ余韻を残して終わらせてしまう場合もあります (これはこれでどちらかを選ばない主人公の優柔不断が感じられて批判されたりもしますが)。
なお、負けヒロインの人気が上がりすぎてどうにもならなくなった場合、負けヒロインを主人公とした救済措置的な 外伝 やスピンオフが描かれる場合もあります。 このあたりの扱いは ジャンル や作品の人気・大きさにもよりますが、場合によってはむしろ本編負けヒロインの外伝・スピンオフの方が人気が出て、本編や勝ちヒロインを食ってしまうようなこともあります。
またそもそもの大前提の話として、純粋な恋愛ストーリーならともかく、そうでないならたかが若い頃の恋愛で1回や2回、意中の相手と結ばれなかったからといって、「負け」「勝ち」 の判定を下すこと自体がナンセンスだ、という意見もあります。 いわゆる 「恋愛至上主義」 に毒された古臭い価値観だというわけです。 このあたりは人によって様々な感じ方があるのでしょう。