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事件と感情の羅列が、感動物語になる創作のスパイス 「伏線」

 「伏線」 とは、ひとつの 物語 の中で、後の展開や出来事のためにあらかじめほのめかしておく事柄のこと、話の筋の明示的ではない前触れ、あるいはヒントのことです。 伏線を 配置 することは 「伏線を張る」、後にその伏線が生きてくる、役割を果たすことは伏線を 回収 する (伏線回収)、消化する、あるいは オチ がつく となります。

 伏線の種類や役割は様々ありますが、現在では作話や作劇をしない人でも伏線というものの存在が知れ渡っているため、「分かりやすい伏線」(作者 が隠しきれていないもの (作者の技術力不足だけでなく、受け手の読解力を信頼できない場合も含む) と 「それだと分からない伏線」(回収されるまで気が付かないもの、回収されても気が付かないもの、それでも漠然とした 認知 はされるもの) の2つの分類が重要かもしれません。

 一般に伏線は、張られた以上は回収するべきだとの認識が支配的ですし、物語を追う受け手 (読者視聴者 ら) はそれらしいものがあれば伏線ではないかと注意を払いその内容を覚えて 「どう回収するか」「どんなオチをつけて話を畳むか」 に興味を持ちます。 作者はこれを意識して、受け手が納得できる伏線・回収を行って 「予想通りだった」 との知的あるいは感情的な快感や爽快感を与えたり、逆に期待を裏切ってインパクトを与えることもできます。

 それだと分からない伏線は、さりげなく提示されて伏線とは感じられず意味もよく分からないけれど、しっかり印象や記憶に残るものであることが重要です。 例えば 主人公 が何気なく身に着けている アクセサリー のように、物語の中でとくに言及はされず初登場時点では物語に影響を与えないものの記憶には残る程度のものですね。 後にそれが重要な意味を持っていることが明かされると、「これが伏線だったのか」 との気付きや意外性からサプライズ効果を得ることができます。 クライマックスシーンで受け手の 脳内 でこれまでの記憶の断片が結びつき、物語全体が一気に立体的に迫ってくるわけですね。 とくに主人公が心に秘めた思いといった伏線は、それを知るものは作品中の主人公とそれを見ている読者や視聴者だけなので、主人公への 感情移入 も一気に進むものとなるでしょう。

 一方で、作劇手法に凝った作家性の高い 作品 では、物語に登場する要素全てに必然性を求めるがあまり、何から何まで緻密に組み上げられた伏線だらけで気が抜けずに見ていて疲れる、どの伏線がもっとも重要だったからわからなくなる、あるいはあまりに作為的かつ予定調和的な流れになって、物語の辻褄合わせや先が決まっている演武や約束稽古に付き合わされているような徒労感を覚えることもあります。 幾重にも張り巡らされた伏線がパチパチと一気にはまりまくるのはパズルを解くような爽快感がありますが、何事もやりすぎは禁物ということなのでしょう。 伏線どころか設定も ガバガバ で、前後で話が矛盾しまくるのにその場の ノリ で突き進むような乱暴な物語にも、独特のライブ感や疾走感があって優れたものはたくさんあります。

 ただし1つの作品を何度も見返すような熱心な ファン の場合、上手に隠されたものは見るたびに新しい発見になったりして、重層的な伏線に唸ったり、それがわかる自分の考察的な視点や感受性に気を良くすることもあります。 それは自慢気に誰かに語りたくなるものでもあり、ネット を通じた口コミが コンテンツ の売上を左右することもある現代、マーケティング的な仕掛けとして忍ばせるようなやり方もあります。

難しい 「伏線」 と類似概念の区別

 伏線と似たような使われ方をされがちなものに、「振り」「前振り」 や 「布石」「予兆」「謎かけ」「仕掛け」「仕込み」「フラグ」 があります。 「小出し」 や 「チラ見せ」 なども近いかもしれません。 それぞれは意味も使いどころも違いますし、このような分類をしないこともありますが、人によっては全てを同じもののように扱ったり、伏線の結果となる回収や消化についても 「タイトル回収」 とか 「OP曲消化」 みたいに、単にそれがクライマックスやエンディングに登場しただけで回収や消化と呼ぶなど、雰囲気 で本来の伏線とは何ら関係のない使われ方をされがちです。

 このあたりは厳密に伏線はこうだ、前振りや布石や予兆はこうだと定義することも難しく (そもそもそれぞれが混ざり合ったものもある)、著名な劇作家やシナリオライターから 趣味字書き までがおのおのの持論を述べつつも、人よって言ってることが微妙に違い統一見解はされていない感じでしょう。 これらと複合しつつまた違った機能表現としてのフックとかアクセントみたいな呼び方もありますし。 ただし伏線はあくまで 「隠してほのめかす」「受け手に自発的に気づかせる」(気付かない人もいるかも知れないけれど、気付けば感動や驚きが何倍にもなる) ものなので、その要件を満たしていないものについては前振りや布石、予兆やチラ見せなどと呼んで良さそうです。

 例えば物語の序盤で 主人公 が 「生き別れた がいる」 と話して、後に偶然知り合った女の子がお姉さんだったと分かった場合は、振りや前振りと呼ぶ方がふさわしいでしょう。 本人がそのまんまの意味で直接セリフとしてしゃべってるので隠してすらいませんし、極めて誘導的であり、誰でも 「この後に姉が出るんだな」 と予想できるものだからです。 ただし主人公が理由はわからないものの年上の女性を慕ったり従順な様子を示しているとか、お互いが姉弟だと気がつくきっかけや決定的な証拠が事前にそれとなく提示されていたものであれば、その瞬間に 「あ!」 と気が付き納得できるでしょう。 この場合は作者が意図的に張った伏線だと考えて良いでしょう。

 また主人公が様々な キャラクター と出会い、その後主人公がピンチとなった時に出会ったキャラが助けに来るなどは、布石と呼ぶ方がふさわしいでしょう。 また主人公とそのキャラとの出会いが、主人公がピンチになるきっかけで確たる理由があるものだったりすると、これはこれで仕掛けや仕込みにも見えてきます。 あるいは物語の序盤に受け手の興味を惹くために、あえて後に描かれるクライマックスの一部を主人公の夢想とか第三者の目を通した語り、時系列を変えるなどで先に見せる場合もあります。 これも伏線ではなく小出しやチラ見せでしょう。 主人公の背後に謎の人物の影が見えたり見えなかったりといった視覚的な描写も、伏線というよりはチラ見せや謎かけが近いイメージです。

 実際はこれらが混ざったり少しずつ反復して積み重ねられ、クライマックスに一気に畳みかける動きをするので判別しづらいですし、同じものでもあるシーンでは伏線だけれど別のシーンではそうでないといったケースもあり、複雑だし難しいです。 そもそも作品のジャンルによっても役割や重要性、言葉すらも変わりますし。 もちろん明確な誤用はありますけど、言葉は時代と共に変わってきたりもしますし、物語を構成するパーツの使われ方や意味も変わってきます。 俗語的な使い方に 「それは違う」 というのも難しいかもしれません。

 なおフラグについては、そもそもの概念自体が異なりますし、本来の意味 (分岐のための条件とその選択、目印) はともかく、その後に生じた伏線と同一視される使い方についてもさほど直接的なものではありません。 そもそもフラグという言葉自体が本来の意味から離れた使われ方 (陳腐な伏線やありがちな前振りを揶揄するような使われ方) をされがちなので、注意が必要かもしれません。

伏線のあるなしで感動が何倍にもなる

 前述した部分やその他の要素を含め、伏線の役割についてまとめてみましょう。

受け手の興味を引く
一見物語の本筋とは無関係に見えるささいな、あるいは謎めいた伏線を散りばめることで、受け手は 「この情報が後にどう繋がるのか」「どうオチをつけるのか」 と考え、物語に対する関心を高める効果が期待できます。 なので連載や続き物の作品の場合、受け手がいつまでも興味や関心を失わないで済むよう適切に配置する必要があるでしょう。 また受け手やファンが独自の考察や 解釈 を行ってファン熱を高めたりファン同士の議論を起こしたり、継続的に話題となることで人気の維持にも役立つかもしれません。

意外性や納得感、余韻の創出
後の展開で明かされる伏線によって意外性からの驚きや、物語の一貫性からくる納得感を生み出し、物語のクライマックスやオチを際立たせる効果があります。 これによって、単なる 「出来事と感情の時系列に沿った羅列」 にもなりかねない 「物語」 に深みを持たせ、登場人物や背景、テーマ に奥行きを持たせ、受け手のより強い感情移入を促すこともできます。 とくに作品を観終えた後の二度目、三度目の鑑賞意欲を高めたり、余韻や満足感を左右する大きな要因のひとつでもあり、物語が結末を終えた後にもメディアミックスやグッズの販売などによってビジネス的な展開を狙う 商業作品 の場合、これは極めて重要な要素でしょう。

サプライズの創出
伏線の意外な回収によって、どんでん返しのような驚きや爽快感を創出することができます。 ただし単に意外なだけでは 「思ってたのと違う」「ミスリードだ」 という裏切られ感が悪い方向に作用しますから、驚いたと同時にそれを納得させるだけの別の伏線を用意したり、受け手が 「伏線を見るとこうなりそうだけど、違うオチになったらいいな」 と思う方向へオチを着ける必要があります。 物語で期待を裏切って受け手に喜ばれるのは、おおむね多くの受け手にとって良い方向だと思われるもの (不穏 の後のハッピーエンドか絶望の後の救いと慰めのあるバッドエンド) のみです。

 伏線は物語が物語であるための構造を支える重要な役割を担い、感情移入や大きな感動を与え、「話を面白くする」 ための必須のテクニックと云えます。 技巧に凝りすぎていかにも作り話といった感じにならないバランスの妙が求められるかもしれません。 また考察好きな人にありがちですが、単なる 「そう見えるだけ」 のこじつけを伏線扱いして、やれ回収されてないとかされてると論じるのも作者にとってはいい迷惑でしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2003年8月20日/ 項目を整理して分離しました)
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