ネット上の 「祭り」 などでよく実行される直接攻撃 「 電凸」
「電突」(でんとつ/ 電凸/ 凸) とは、「電話突撃」 の略です。
もっぱら問題のある企業や団体、個人、あるいはそれが原因で盛り上がる ネット の お祭り などで当事者もしくは関係者などに対してよく実行される、ある種の実力行動となります。 「電話直撃」 などとも呼びます。 実際に行う場合には、「凸る・凸する」 などと呼んだりします。
多くの場合、単に苦情電話を入れる、真意をただす問い合わせを入れる…なんてだけではなく、その応答の様子をネットの 掲示板 などで レス の形で書き込んで詳細に報告したり、録音したものを mp3 などの音声データや、動画共有サイト などの動画でそのまま公開したりします。 単なる 「イタズラ電話」(イタ電) ではなく、ある種の 「突撃インタビュー」 のような形をとった苦情となっている点が特徴でしょうか。
「苦情電話を入れる」 なんて 「抗議方法」 は、ネットが登場する以前からもちろんありますが、情報を不特定多数で 共有 できるネットが中心の活動の場合、規模が著しく大きくなったり、ターゲットとされた企業や団体、官公庁、個人の行った 「まずい対応」 が記録として残り大勢に共有される点で、その影響力、破壊力、ターゲットの受ける ダメージ の深刻さは比べ物にならないといって良いでしょう。
とりわけ 2000年代になってから、掲示板などで盛り上がる 「電凸」 の場合、旧来の 「ネット告発」 などと違い、特定の個人や団体が中心となって行う抗議活動ではなく、まったく無関係の個々人が、勝手気ままに自由意志で参加している点が、旧来の 「組織的な抗議活動」 と大きく異なる点です。 ターゲットとされた企業や団体、個人は、誰を相手に対応すればいいのか、誰を納得させれば騒ぎが収拾するか分からず、もちろん水面下の交渉なども不可能で、一度の対応ミスが致命傷となりかねません。
なお 「凸」(とつ) を、デコ ボコ のデコと読んで、「電でこ」(でんでこ) と読む人もたまにいます。
メールやファックスの場合は…
この他の表現としては、メール で苦情を送ることは 「メール突撃」(メル突/ メル凸)、ファックスなどを送ることは 「ファックス突撃」(FAX突撃/ FAX凸撃/ FAX凸)、実際にその当事者に会いに行ったり口頭で苦情を伝達すること (単に当事者の所在地近辺をうろつく…なども含む) は 「リアル突撃」(リア凸) もしくは スネーク などと呼びます。
ネット初の大騒ぎになった伝説的な電突 「東芝クレーマー事件」
東芝のアフターサービスについて |
ネットにおける、この種の始祖ともいえるのは、1999年に起き、パソコン通信 や インターネット の世界で大きな話題となった 「東芝クレーマー事件」 でしょう。
東芝製の ビデオデッキ を購入、それを修理に出したものの、満足な対応を行ってもらえなかったことに業を煮やした福岡市の会社員のユーザーが、東芝のお客様サービスセンターに問い合わせと苦情の電話をおこなったところ、相手担当者がユーザを 「クレーマー呼ばわり」 した上に、高圧的な喋り方でぞんざいな対応を。
これに激怒したユーザが、顛末や商品の 画像、電話の内容を録音した音声などを、ニフティ のホームページサービスに立ち上げたサイト 「東芝のアフターサービスについて(修理を依頼し、東芝本社社員から暴言を浴びるまで)」 で6月3日に公開。 ニフティのパソ通ユーザや、当時できたばかりの掲示板 2ちゃんねる などで大きな話題となり、1ヶ月弱ほどで 40万アクセスを突破、その後加速度的にネット上に情報が広まり、マスコミも報道する騒ぎとなりました。
ついに 1,000万アクセスを突破、大きな話題に
この時のユーザ側、東芝側双方のそれぞれの言い分の正当性や、この出来事の顛末はともかく、「ただの個人」 が、日本を代表するような大企業相手にここまでイメージ的な打撃を与えることができるようになったという点では、まさにエポックな出来事と云えます。 ネット登場以前には、せいぜい苦情の電話で怒りを伝えるとか、ビラを印刷して配る (数百人程度がせいぜい)、裁判に訴えるくらいしかできませんでしたから、わずかな手間でこれほどのインパクトを与えられるネットの力を、まざまざと思い知らせる事件となっていました。
このサイトには、ニフティ提供の CGI による アクセスカウンター (IP 判定型) がついていましたが、この数が1万、10万、100万、1,000万と増えるごとに、「ネットで大勢の人間が見守っている」 こと自体が企業側への強烈なプレッシャーとなり、またネットの持つ世論喚起やそれを裏づけとした大きな力を与えるきっかけとなりました。 1990年代に、個人のサイトがごく短期間に1,000万ものユニークアクセスを稼ぐのは、非常に稀有なこととなっていました。
同時に企業側の情報危機管理の問題も浮き彫りになり、とりわけ 「不買運動」 の声が一部ネットユーザの間で広まると、東芝側が 「ウェブページの一部差止めを求める仮処分」 を裁判所に申請。 これが決定的な 燃料 となり、さらに事態を悪化させる原因となってしまいました。
「電突依頼所」 が登場、広範に 「電凸」 が発生
「東芝クレーマー事件」 については、「電凸」 そのもののインパクトとは別に、個人がウェブサイトでメッセージを広く伝えることができる 環境 を手に入れたという点で格別な意味がありましたが、会社員である電凸のご本人は 「そこまで話が大きくなるとは当初は思わなかった」 ようです。
この会社員に対する評価も様々ですが (クレーマーという言葉も、この事件から 認知 され広まったといって良いでしょう)、この事件の顛末や、それを経てから後のネットでの告発や問題提起を踏まえて、とりわけセンセーショナルなインパクトのある 「音声データ」「決定的で動かない証拠としての音声、動画の記録」 を積極的に活用しようとする人たちが次々にネット上に現れるようになりました。
マスコミの 「直撃取材」 を揶揄する形で、対マスコミ抗議の 「電話突撃」 が誕生
2ちゃんねる」 の 「ハングル板」 略称 「ハン板」 は、「七厨板」 の ひとつとも揶揄されるが、マスコミ 批判の急先鋒の存在 |
その後 2004年9月8日に、掲示板 「2ちゃんねる」 のハングル板 (ハン板) にスレッド、「電話突撃隊出張依頼所」 が立てられることとなります。
直接的な現在の 「電突」「電凸」 などの呼称の 元ネタ は、ハングル板などで 「祭り」 が起こるたびに散発的にそれぞれのスレッドに書き込まれ行われていた電話抗議 (2002年ワールドカップの中継への苦情や、前年2003年7月2日に起こった、玄界灘漁船 「第18光洋丸」 沈没事件など) や、それを受けて作られたこのスレッドからとなっています。
その直後の9月19日には 「マスコミ板」 にも、「★マス板電話直撃まとめスレ★」(後の 「マス板電話突撃隊」) が登場。 誰かが質問内容や質問先を テンプレート にのっとって 書き込み (依頼) すると、別の参加者がそれを実行して結果を報告するスタイルが、これらのスレッドにより確立されました。
このスレッドでは、主に韓国や北朝鮮、中国 (特定のアジア3国、あるいはこれらの国に関係する日本側対応) などに関するマスコミ報道や政治的な対応に関する不信感、不快感が、その根底に流れています。 一部ではこれらの国に関係する企業や団体、個人などへの苦情も行われていますが、初期の頃から基本的には、日本のマスコミや政治家、政党などへの、「なぜ日本側だけが悪いかのような報道になるのか」「なぜ 特定アジア の悪い情報は伝えないのか」「なぜ政治的な譲歩をするのか」 といった、真意をただす形の苦情となっている点が特徴です。
2000年代初頭頃から盛り上がった特定アジアを嫌う空気は、日韓 共催 となったワールドカップ第17回大会が開かれた2002年頃に大きく盛り上がり、2004年には北朝鮮の拉致問題の進展や、中国による尖閣諸島や東シナ海のガス田の不法な干渉や無断 開発 が大きな話題となっていました。 マスコミ主導の 「韓流ブーム」 もあり、マスコミの 「偏向報道」 に怒りを感じるネットユーザが激増していた時期でもあります。
敷居の高い 「電突」、それだけに…
「祭り」 となると、こうした 「電凸」 を行い、その様子を書き込みや音声データの形で報告する人は、GJ とか 神 とも賞賛されることに。 これは、メールなどに比べるとはるかに面倒でお金がかかり、また自分の身元が抗議先に伝わるのを恐れない点を評価する空気が強いためで、何かの事件を発端に祭り状態となると、大勢が手分けして電話を掛け、電凸先の対応を一覧にまとめるケースも多くなりました。
またこれらとは別に、例えば架空請求詐欺業者への電話攻撃 (テレビ番組、「報道特捜プロジェクト」 の 「不正請求」(2005年8月20日放映、後にシリーズ化) のイマイ記者のような攻撃)とか、テレビ番組に対する苦情では、単にテレビ局や番組スタッフ、制作プロダクションへの苦情や問い合わせに留まらず、スポンサー企業や関連するあらゆる企業、団体などへの抗議電話に拡大。 その影響力と破壊力はますます大きくなっているようです。
毎日新聞英語版サイトの 「変態報道事件」 では、スポンサー広告が消滅
変態記事を垂れ流していた毎日新聞英語版 「WaiWai」 |
とりわけ毎日新聞社が英語版ニュースサイト 「Mainichi Daily News WaiWai」(毎日デイリーニューズ) に掲載していた 変態 ニュース (後に、紙版の英字新聞時代からやっていたことが発覚) への抗議行動は苛烈を極め (2008年) ました。
中でも 「売春婦だ」 と名指しで侮辱された主婦 (鬼女 さんたち) の怒りはすさまじく、電凸対象も毎日新聞だけではなく、むしろ毎日新聞に広告を出しているスポンサー企業に集中 (いわゆる 「スポンサー問い合わせ」)。
結果、毎日新聞サイトから、企業広告が一時ほぼ完全に消滅する事態ともなりました。 毎日新聞は会社として正式に謝罪し (ただし 突っ込み所満載 の、不十分なものでしたが)、検証記事を見開きで掲載する事態に。
サブプライムローン問題による金融危機や折からの新聞離れの傾向もあり、電凸の効果もあいまってか、その年 (第32期(2008年4月1日〜平成2009年3月31日) の毎日新聞社は単体の繰越利益が60%も減少し、連結で12億円もの最終赤字を出す惨憺たる経営状態となっています。
スポンサーへの苦情や問い合わせのほか、販売所への問い合わせも
2010年5月18日にツイッターで配信された 日刊ゲンダイ5月19日の紙面の見出し 「東国原浮かれ知事に天罰 口蹄疫大被害と 疫病神知事 お笑い芸人失格人間を知事に 選んだ宮崎県民に責任があるのに国の税金で 救済は虫が良過ぎないか」 |
2010年5月19日には、駅売りのタブロイド紙、日刊ゲンダイが、かねてから九州、宮崎県で猛威を奮っていた 「口蹄疫」 の大流行について報じた記事が問題とされ、騒動が勃発。
この記事では、対策に奔走する東国原知事と宮崎県民を 「東国原浮かれ知事に天罰 口蹄疫大被害と疫病神知事 お笑い芸人失格人間を知事に選んだ宮崎県民に責任があるのに国の税金で救済は虫が良過ぎないか」 との見出しと共に批判し、一部では愚弄するものでした (右図は、見出しを配信している同紙の Twitter)。
この見出しや記事内容があまりにひどいこと、さらに同紙がかねてから政権与党である民主党を礼賛する記事を配信し続けていたことから、「民主党 赤松広隆農水大臣に危機感がなく、後手後手でデタラメな対策が被害を拡大させている」 との意見が強い中、「その批判をかわし、現場 に罪をなすりつけるためのものではないか」 との憶測から、ネットで大きな騒動に。
また民主党側が 「報道による風評被害を防ぐ」 と称して、稚拙な対応をしていた赤松農水相が浮き彫りになる報道に総務省として制限を加えていたのではないかとの疑惑や、元々赤松さん自体のネットでの評判が最悪に近い (ネットで反対が根強い外国人参政権の積極推進者であり、外国人団体へこれを 「公約」 し、また外国人団体による選挙協力を感謝していた) ことなどもあり、大きなお祭りに発展した原因でもありました。
このケースでは、同紙やスポンサーへの抗議活動なども行われましたが、スポンサーの多くがアダルト・風俗やギャンブル業界の会社で、この種の批判に無頓着が予想されること、さらに同紙への抗議は偏向報道などを理由にこれ以前にも何度か行われていて、いずれも 「馬耳東風」 であったことから、JR線駅構内の売店やキヨスクなどへ新聞を取り次ぎしている鉄道共済会へも、「なぜこんな新聞 (実際は雑誌扱い) の販売を行っているのか」「取り次ぎをやめろ」 との問い合わせや抗議が殺到する騒ぎとなりました。