ギャップが魅力的な 「俺っ娘」
「俺女」(おれおんな)、「俺っ娘」 とは、一人称が 「俺」「オレ」 の女性のことです。
マンガ や アニメ など、創作物に登場する架空の女性の キャラクター でしばしば見かけるタイプですが、ボーイッシュ、あるいは男勝り、生意気な ツンデレ系、ツリ目 のキャラである場合も多く、性格に対するこうした 設定 が好きな人、萌え属性 がある人にはたまらない魅力を持つようです。
男性が使う言葉、それも少々荒っぽい一人称をあえて女性が口にすることで、中性的 な魅力があったり、ちょっとしたきっかけでよりいっそう女性らしさが際立つのが良いんでしょうね。
創作物のキャラと、リアル女性 (三次女性)、それぞれの 「俺女」
一方、現実世界で一人称が 「オレ」 の女性 (三次女性) も、ごく稀にですが存在します。 「性同一性障害」(性自認の混乱) で本人も悩んでいるような深刻なケースから、単に思春期に、かっこいい男性キャラに憧れて口調を真似ているだけのケースまで様々ですが (俺や僕のほか、ワシや拙者、自分なんてのもある)、こちらはTPOをわきまえた使い方をしていれば問題はないのでしょうが (コスプレ で異性装した時など)、ところ構わず 「オレオレ」 の場合は、痛い、香ばしい なんて揶揄されるケースもあります。
こうした発言を行う女性が、しばしば 腐女子 の属性を持つこともあり (そうでない人もいる)、男性の おたく だけでなく、同性の同じ 趣味 の人たちからも、「不快だ」「かっこいいつもり?」「勘違いしすぎ」 などと時として批判的に見られるケースも多いようです。 ネット の世界などではかなり初期から 叩き ネタ のひとつとされ、様々な 「勘違い女」 の様子が書き込まれたりしていました。
なお好意的に見ている場合には、いわゆる 萌え要素 のひとつともされ、似たような要素、ボクっ娘 に近い扱いを受ける場合もあります (男性の一人称を使う女性全般の説明は、「ボクっ娘」 の項目で行っています)。
男性から見た萌え要素としての 「俺っ娘」
ところで架空のキャラとしての 「俺っ娘」 の存在を大きく広めた存在としては、1980年1月に連載が開始され爆発的ヒットとなったマンガ、「Dr.スランプ」(鳥山明/ 週刊少年ジャンプ/ 集英社) に登場したキャラ、「木緑あかね」 でしょうか (これが初出というわけではない)。 喫茶店 「Coffee Pot」 を経営する両親の娘で、中学生のワルという設定。 酒やタバコを口にする 金髪 でパーマの ポニーテール をした女の子でした。
1980年代、空前の 「つっぱりブーム」 があったことから、スケ番(女番長) 的なキャラクターがあちこちで発生、自分を 「オレ」 と称するマンガのキャラやドラマの登場人物が生まれていましたが、「木緑あかね」 のように、ある意味で極めて女性的でキュート、魅力的に描くケースはあまりなく、作品が国民的大ヒットとなったことから、この影響力は無視できないものがありました。
1970年代に 「一人称が 「ぼく」 の女の子」 のブームとも呼べる空気がありましたが、これがより男性っぽい一人称に進化 (理由があって変化した) したものとも呼べるでしょう。 ただし江戸から明治時代にかけて、一部の女性 (花魁など) が、「俺」 や 「おいら」 など男性の一人称を使うケースはありましたから、個別的レアケースがその前にあったのはもちろん、それなりの広がりを持つ文化として登場したのも、これが最初という訳ではありません。
マンガ、アニメ、実写…80年代は 「俺っ娘」 の黄金期
ほぼ同時期、無数のパターンの美少女キャラが乱舞し 「おたく」 界隈 で大ヒットした作品、「うる星やつら」(1978年〜) にも、こうした一人称を持つ 「弁天」 や性格豹変した時の 「ラン」(正確には一人称は 「ワシ」) などがいました。 長期連載だったこともあり、ほとんど美少女造形の実験場のような多彩なキャラが目白押しの作品ですが、中でも 「父親に男として育てられた」 という設定の、「藤波竜之介」 の存在感は別格でした。 サラシを胸に巻き、ガクランを着てケンカに明け暮れながらも女らしさを求める竜之介には、まさに 「俺女」 の魅力の全てが詰まっていたといっても良いでしょう。
一方実写の世界では、1982年4月17日に公開された映画、「転校生」(監督/ 大林宣彦) の 「斉藤一美」(小林聡美) が登場。 男の子と女の子の心と体が入れ替わってしまうという内容で、本人が積極的に 「俺」 と自称している訳ではありませんでしたが、作品の爽やかな青春劇としての完成度の高さもあり、「男っぽい女」 の魅力を実写の世界でも存分に発揮しました。
オレのこと好きなんだろ? そろそろ体験してもいい頃なんじゃないか?
さらに1985年1月8日になってTBS系列で放映されたドラマ、「毎度おさわがせします」 に ヒロイン として登場した中山美穂演じる 「森のどか」(13歳〜14歳の中学生設定) は、「俺っ娘」 に決定的な影響を与えたといっても良いでしょう。
当時15歳の中山美穂さんの初々しく体当たりの演技で好評を博したこのドラマは、中山美穂自身がアイドルとして人気爆発したこともあり (C-C-B が歌う主題歌の 「Romanticが止まらない」 も大ヒット)、作品も大ムーブメントを引き起こしました。 男性 ファン からの熱烈な支持を受けただけでなく、中山美穂に憧れ、のどかの口調を真似する一般の女の子も増殖することとなりました。 ちょっとエッチでワルな感じの女の子の 萌える 要素として、「生意気で俺口調」 の女の子の造形が、この頃にはすっかり定着した感じがあります。
オレっ娘コミックの金字塔? 「電影少女」 の登場
なお時代をだいぶ下って、1989年に週刊少年ジャンプに登場したSFラブコメディ、「電影少女」(桂正和) に登場するビデオガール 「天野あい」 は、二次元の 「俺っ娘(ボクっ娘) 好きにはもうたまらない作品になっていました。 落ち込んだ男性に貸し出される不思議なビデオテープを再生すると、なぜかテレビ画面から現れ 「慰めてくれる」 というビデオガール。 ところが ビデオデッキ が不調で再生がうまくいかず、「不良品」 のような状態で現れたのが 「あい」 でした。
本来は胸が大きく女性っぽい性格の女性だったのが、デッキの不調のせいで 「男っぽい性格」「しぼんだ胸」 となっていて、一人称は 「オレ」。 しかし、画風の変わった桂正和さんの美しく可憐で精緻すぎる絵柄とこの シチュエーション は素晴らしく、また女性キャラの心情のあまりにリアルな描写から、「俺っ娘」 ファンを広める原動力に。 単なる人気作品というだけでなく、マンガにおける美少女の描き方のひとつの基準を作り上げたといって良いでしょう。
この作品は裸体やエッチなシーンも出てくることから、当時吹き荒れた 有害コミック の排斥運動の中、お色気コミック・バッシングの矢面に立たされた作品のひとつでしたが、読者 から絶大な支持を受け長期連載され、桂正和さんの代表作となっています。
オレっ娘は、普遍的な人気キャラタイプのひとつに
その後 「オレっ娘」 は、「ボクっ娘」 同様、様式として確立したことから、以降のラブコメマンガや美少女ゲームなどでは一人くらいはキャラクターとして登場する、普遍的なある種の女の子のタイプ、造形として、もはや一般化しているようです。 日ごろはワルぶっているのが、いざその時となると急にしおらしく頬を染めたりして、女っぽくなる…そのギャップ、境界線が良いんでしょうね。
ちなみに 筆者 のストライクゾーンど真ん中です。 誰も聞いてませんね。 すっ…すいません…。 男顔でオレっ娘、しかも若干 ドジっ子 属性…最高です至高です究極です。 すっ…すいません…。
ていうか、中山美穂さん演じる 「森のどか」 のかわいさはすごかったです。 ストライクゾーンど真ん中の 「かわいい」 という感情に常軌を逸した衝動が伴うのは当たり前ですが、飛び道具としてこれほどの殺傷能力があるとは知りませんでした。 男性だけでなく、女性からも強い支持を受けたのは、ある意味で当時絶頂だった松田聖子さん的な ぶりっ子 に対する女性のアンチテーゼでもあるのでしょうが、ボーイッシュな女の子がオレオレ言い出すその当時、すでにそういう属性を持っているのを認識していた筆者にとっても、まさに人生のピークでした…。