ドジっ子・アホの子の必須スキル 「料理爆発」
「料理爆発」(りょうりばくはつ) とは、ご飯を作るための台所仕事の最中、何を間違ったか調理中の料理が爆発してしまうことです。 現実の世界でも圧力釜の使い方を失敗したり、電子レンジやガスコンロの使用方法のミス、あるいは油を使った料理などで起こりうる事故 (それも場合によっては大怪我や大火傷を負いかねない結構深刻な事故) ですが、マンガ や アニメ、ライトノベル などの小説などでは、ドジっ子 もしくは アホの子 の 要素 を持つ キャラクター の お約束の展開、となります。
またドジッ子とは正反対とも思われる優等生、秀才キャラ、それがエスカレートしたマッドサイエンティストなどでも、「勉強はできるけれど料理は下手」「おかしな工夫をして化学実験さながらの危険な領域に踏み込む」 なんてのを、コミカルに伝える 定番 の展開となります。 何の説明がなくとも、とりあえず料理を爆発させて 「テヘッ」 とさせとけば、「この子はドジなんだ」「この作品は爆発でも人が大怪我したり死んだりしない物語なのだ」 と伝えることができ、とても便利な シチュエーション のパターンといえます。
なお料理そのものが爆発するのではなく、あまりのマズさに、それを食べた人が火を噴いたり頭が爆発するような描写 (あまりに辛すぎる、など) となって表現されるケースもあります。 いずれも頭がチリチリパーマのアフロ状態となり、顔にススのような黒い汚れがつき、服の一部が破れるなどし、またどちらのケースでも、作者 が 読者 などに伝えたいイメージは同じです。
ところでなぜ料理は爆発するのか
コントの世界では爆発はお約束・鉄板 の テーマ です。 例えばドリフターズのコントでは、「ドリフの大爆笑」 が放映されると必ず爆発を ネタ にしたコントが1本程度は登場し、チリチリの爆発頭になって口から煙を吐くのがお約束でしょう。 こうした 「お笑いのネタ」 に 「爆発」 が使われるのは歴史も古く、「爆発」 というある種の 「非日常の異常事態」 が、物語の 設定 で 「悲劇か喜劇か」 のどちらかになるのは当たり前とも云えます。
こうした 「爆発が笑いのイメージ」 になった直接の原因は、バスター・キートン(Buster Keaton (1895年10月4日〜1966年2月1日) などの映画時代の喜劇俳優 (キートン、及びチャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイド) らによる無声 モノクロ 映画 (サイレントトーキー) でのギャグ表現の人気と普及でしょう。
音がなく画質の悪いモノクロ映画では、何より 「動きの面白さ」 が重視され、いずれの喜劇王も命がけの危険なスタントのようなダイナミックなアクションを披露していました。 中でも爆発は、タバコをふかそうとパイプに火をつけたら爆発とか、鉄砲を撃とうとしたら爆発とか、その アイテム が出てきたら 「必ず爆発するぞ」 という 「展開の先読み」 で観客に 「笑う準備をさせる」「期待通りに笑わせる」 という意味で、格別なものがありました。
またこれらの喜劇王が活躍していた時代、大きな戦争により大砲やら銃やら爆弾やらが色んな意味で 「身近に感じられるもの」 だったこともあります。 日本では戦後すぐに 「不謹慎だ」 として見られなくなりましたが、「戦争喜劇」「兵隊喜劇」 のようなものが欧米には大変多く、「偉そうにしている将軍や権力者が爆発で真っ黒になって右往左往する」 などの描写には、戦争に巻き込まれた庶民の溜飲を下げさせると同時に、不幸 な戦争をも笑いにしてしまおうという、喜劇役者や映画産業、それを見る観客などの庶民の 「たくましさ」 を感じるエピソードともなっています。
こうした 「ギャグ」「喜劇」 の 「様式」 は、アメリカだけでなく日本でもコントやコミカルなマジックショーの世界で生き続け、それがそのまま日本のマンガやアニメの世界でも、失敗やドジの 「お約束」 として脈々と受け継がれ、息づいているといって良いでしょう。
少女漫画の世界で 「料理☆ばくはつ!」
こうした 「料理爆発」 が定番化したのは、いわゆる 「少女漫画」 の世界でした。
女の子が読む少女漫画では、ひと昔前の一般的な認識として 「女の子なら、ちゃんとできて当然」 と思われるような様々な行動 (裁縫や 掃除 などの家事、化粧などの身だしなみなど) がありますが、料理はその代表格の一つです。 女の子なら誰でも 「大きくなったら お母さん のように、美味しくて立派な料理を手際よく作りたい」 と思うものでしょう (あくまで一般論ですが)。
「主人公 の成長」 を描く少女漫画では、読者となる女の子と同じ、むしろそれより 「劣る」 ような、おっちょこちょいでドジでおてんばな女の子キャラが必要で、そうしたキャラクターであるのに、「料理爆発」 くらい 「わかりやすい」 ものはないのでしょうね。 まぁ実際に料理が本当に爆発するのかはともかく (たまご を電子レンジとか、小麦粉が粉塵爆発とか、ありえない訳ではないですが)。
こうした描写のもっとも早いものは、田河水泡 (1899年2月10日〜1989年12月12日) のマンガ、「のらくろ」(少年倶楽部〜) などの 戦前 のマンガだと思いますが、その描写様式は世界の喜劇王から日本のマンガの黎明期、そして現代に至るまで、笑いのために脈々と受け継がれているのでしょう。
重大事故や災害、戦争やテロと切っても切れない 「爆発」。 爆発が 「笑いのネタ」 であるのは、本当に平和で幸せなことなのかもしれません。