お腹のあたりが もにょもにょ するのです…
「もにょる」 とは、ある特定の特徴を持つ 同人誌 などを読んだ時に感じる、お腹の中がモニョモニョするような感覚、こそばゆい感じ、微妙にむず痒くなるような独特の感触を表現した言葉です。 主に女性の同人関係者が使う言葉で、やおい系、BL系 の話題でよく出てくるようです。
語源としては、掲示板 2ちゃんねる の 「同人コミケ板」 において、2000年7月に立てられた スレ (スレッド)、「へぼい本を読むと」 において最初にその 概念 が生まれ、また造語されました。 スレタイ (スレッドタイトル) を見ればわかるように、「へぼい 本」 を読むと 「おなかがもにょもにょします」 という訳ですね。
ここでいう 「へぼい本」(ヘ本) は、当初は単なる罵倒や一方的な批判ではなく、ある程度の評価、いくばくかの共感、あるいは多少好意的な感情からでた 「いいんだけど…ビミョ〜」「う〜ん…でもちょっと(^^;」「突っ込み所満載 でどこから突っ込もうかワクワクしてくる」「でもこういうの、自分にも覚えがある」 な言葉でもあるのは、面白い点です。
へぼい本を読むと…
この 「へぼい本を読むと」 スレッドでは、「へぼい本」(トホホ本とかヘタレ本などとも) の特徴が様々取り上げられ、「あるあるネタ」 のように、「へぼい本」 にありがちな同人誌のトホホな傾向が話し合われていました。 例えば 設定 で、「攻め キャラ はなぜかお金持ち」「登場人物の家庭 環境 がやたら複雑」「高校生なのに、なぜか高級マンションに一人暮らし」、あるいは 絵 の傾向で 「バストアップの絵はかなり巧いのに、全身像はデッサンが?」 などです。
しかしそこでは、そういう本や 作者 をとことん批判し突き放すというよりは、スレッド に 書き込み している参加者自身も、「なんとなく自分にも身に覚えがある」「実は私も昔はそんな痛い設定の マンガ を描いていた」「同人作家としての技術が追いついていないが、その作品、キャラ、あるいはその カップリング が心の底から本気で好きなのはわかる」 すなわち 愛が感じられる といった微笑ましさを覚える部分も少なくなかったようで、だからこそ、「へぼい本」 を読んで 「腹が立つ」 ではなく、「お腹がもにょる」 になるわけですね。
またそうしたマンガに登場するキャラ (自分の好きなキャラでもある) が煮え切らない態度を取るのを歯がゆく感じる感覚を表したり、結構複雑な言葉だったりもします。
このあたりの感覚は、男性同人関係者でも、いわゆる 中二病 や 邪気眼 的な若い頃の創作 (黒歴史) の気恥ずかしさの懐古的な感覚として、あるいはそうした作品に登場するキャラクターの恥じらい (作者の恥じらいでもある) に対して似た気分や感触、優しい 共感性羞恥 を覚える人もいるようです。
あげつらって笑いながらも、どこかに温かい (生ぬるい?) まなざし…
男性同人 ファン や作家らがする男性向け同人の話なんかの場合にも、「廊下で衝突してくる下級生の美少女」「眼鏡をコンタクトに変えたら美少女に」 のような 「ありがち設定」 を 「トホホだ」 として笑う場合もあります。
また 「ヘタレ絵 晒し」 も、へたくそな イラスト を晒してバカにしている人ばかりという訳ではなく、こういう独特の感覚を持って参加している人も多く、過去にヘタレ絵作家として笑われたような人がぐんぐん上達し、素晴らしいイラストを描くようになると、賞賛を惜しみません。
へぼい本なども、本気でバカにするというより、お笑いの ネタ として、あるいは自分にも身に覚えのあるネタとして盛り上がる話ですが、ここらは創作をやっていると陥りがちな落とし穴、地雷 ですし、性別や ジャンル を問わないといった感じでしょうか。 ただし取り上げられた同人誌やイラストの作者からしたら、これらの言動は結構きつかったかも知れません。
徐々に 「もにょる」 の意味も変質
ただし 「もにょる」 はその後あちこちで使われるようになるにつれ、そうした本来の微笑ましさ、時にはある種ちょっとした賞賛の意味すらあったのが変容し、単なる批判や罵倒の言葉として使われるケースも多くなっているようです。
定義が定まっていない時にいろんな意味があるのは当然として、一度ある程度決まった言葉も発祥の地やコミュニティを離れ、人から人に伝わるごとに、意味もどんどん変わっていくって感じでしょうか。 場所や使う人によっても ニュアンス は様々だったようです。
この言葉が作られて数ヶ月もしないうちに、「へぼい本」 を読んだ時に覚える、すっきりしない違和感や不快感、気分が悪くイラッとする感じ、お腹じゃなくお尻、肛門の穴がむずむずする、転じてホモ同人のヘボい本を読んだ時の怒りなどをあらわす言葉として使うケースが多くなりました。
単純な罵倒表現ともなっている 「もにょる」
さらにその後、「追い詰められた」「切羽詰った」「落ち込んだ」 なんて自分のダークな状況、気分を表す言葉としても使われるようになり (恐らく出自が異なります)、「仕事が忙しくてもにょりたい」「電車の中で変な おじさん と密着してもにょった」 なんて使い方をするようにもなりました。
言葉が誕生した時の形、平仮名表記での 「もにょる」 と、それが伝播したカタカナ表記の 「モニョる」 とでは、言葉が変わっている、カタカナの 「モニョる」 には、ネガティブ なイメージを強く持つ使われ方が多いとの意見や考え方もあります。
複雑で奥行きのある、滋味あふれる言葉だったものが、不快や キモイ といった単純な罵倒表現になってしまうのは、ちょっともったいないような気もします。