あなた方先輩ファンがいたから今がある… 「支えてくれてありがとう」
「支えてくれてありがとう」 とは、何らかの 「古参 の ファン」 に対し、「新参ファン」 が感謝の気持ちを込めて贈る言葉です。 「ずっとファンでいてくれてありがとう」 といった言い回しになる場合もあります。 ファン活動の対象は様々で、アニメ や マンガ、ラノベ、あるいは ゲーム といった エンターテインメント系 の コンテンツ やアイドルタレント、声優など、とくに ジャンル や カテゴリ は問いません。
一般的に何らかのファンというのは、ファン歴 が長い古参はいわゆる 「古参風」 を吹かせて新参を下に見たり マウント行為 を取りがちですし、新参はそうした古参を疎ましく感じて避けがちな傾向があります (一概には云えませんが)。
そうした中、とりわけ面倒くさそうな おたく な人たちの間で、新参が古参を褒めたたえ、「支えてくれてありがとう」 と同じファンに感謝まで捧げるのは、ちょっと珍しい光景かもしれません。
最初は期待されていなかったコンテンツやタレント…それが一躍ブレイクに
こうした言葉がリアルで、あるいは ネット の 掲示板 や ツイッター などの SNS、ブログ などで交わされるパターンには、いくつかの傾向があります。
まず第一は、古参ファンが支えたコンテンツやタレントが、当初はあまり期待されていなかったパターンです。 本来ならたいした話題にもならずあっという間に消えてしまってもおかしくなかったけれど、古参ファンがいち早く注目し話題にして応援し続けた。 その結果、徐々に人気が出て今日のブレイクを実現し、新参の自分が素晴らしいこの作品に触れることができた。 その機会や出会いのチャンスを与えてくれてありがとうと、素直に感謝するパターンとなります。
もう一つは、そのコンテンツやタレントのある種のピーク (ランキングで一位を取った、視聴率で一位を取った、大きな賞を得た、東京ドームなど大きな舞台でライブを行った、最終回や解散、活動休止になった、など) を迎え、新参ファンがあまりの感動や感激、自分でも抑えられない感情の高まりに打ち震え、自己陶酔気味に誰彼構わず 「ありがとう」 と大声で叫びたくなったパターンです。
実際はこれらがいくらか混ざり合った形で 「支えてくれてありがとう」 が出てくるわけですが、「当事者でもないただのファンのくせに何様のつもりだ」「単に自分に酔ってありがとうと叫んでるだけだ」 との冷ややかな見方がある一方で、新参が古参に敬意を払う姿を美しく、あるいは微笑ましく感じる人もいて、その評価は様々でしょう。
許斐剛さんの 「テニプリを支えてくれてありがとう」
なおファン同士で掛け合う言葉の他、関係者がファンに対して行う感謝があります。 こちらはある意味で当たり前の話ではあるので昔からありますが、長寿作品となったマンガやアニメの節目やロングラン公演が行われた舞台などでは、しばしば出演者や関係者が舞台や様々なメディアで謝辞として述べたりします。
このフレーズをそのまま使った楽曲もあります。 10年にわたって連載されアニメや舞台なども大ヒットした人気作品 「テニスの王子様」 の楽曲、「テニプリを支えてくれてありがとう」(2015年6月26日) です。 作者 許斐剛さんによる作詞作曲歌唱のこの歌は、ファンにこれまでの感謝を述べるとともに、キャラのメッセージや作者としての未来への決意表明、これまでと変わらない応援を求めるものでした。
初音ミク で、新参ファンが古参ファンに 「ありがとう」
2017年4月には秋葉原で初音ミク10周年イベントも |
ファンからファンへの感謝でしばしば話題になる存在と云えば、2007年8月31日に VOCALOID (ボーカロイド/ 合成ボーカル音声による楽曲の歌い上げソフト) の新シリーズとして登場し、その後はネットはもちろん広く日本の若者の音楽シーンを根底から変革させた 初音ミク でしょう。
ミクや前後の音源を使った音楽動画作品は 「ボカロ曲」 と呼び、多数の作品が作られた一方、歌ってみた・演奏してみた・踊ってみたといった歌い手やその他パフォーマンス文化発展の起爆剤となったり、MMD による 3D の CG 文化も発展させ、ニコニコ動画や 二次創作・コスプレ といったポップカルチャー全般と相互作用しつつ、文字通り一世を風靡する存在でした。
しかしある程度の時間が経つと似たようなものばかりが濫造されたり飽きられたりで、一時的に勢いが鈍ることもありました。 けれどもその都度、その時期を代表すると後に評されるような優れた作品が前の作品の影響を受ける形で折々に新しく発表され続け、長期にわたるその繰り返しで単なる一過性のブームからひとつの文化にまで昇華したと云って良いでしょう。
初期の大ブームを起こした人はもちろん、ブームとブームの間の停滞期にも変わらずミクを愛し様々な作品を発表し続け、ジャンル として火を灯し続けた古参ボカロP (楽曲作成者) やファンたちは、その後にこの世界に入ってきた人たちから 「ミクの火を灯し続けてくれてありがとう」 と感謝され賞賛されるにふさわしい活動をしており、目指すべき先達として尊敬もされる存在だと云って良いでしょう。
ラブライブ! で、新参ファンが古参ファンに 「ありがとう」
「ラブライブ!」公式サイト |
ちなみに 筆者 の観測範囲で云えばもう一つ、2010年の 「電撃G's magazine」(2010年7月号) のいち雑誌企画から始まって、その後社会現象にもなった 「ラブライブ! シリーズ」 あたりは、「支えてくれてありがとう」 の発生が起こりやすく、またその流れも分かりやすいパターンでしょう。
スクールアイドル グループ のいわゆるメディアミックス企画 (同時進行のオールメディアプロジェクト) として登場したラブライブ!は、当初は参加する声優も伏せられ、企画自体もよくわからず、コミケ などと連携した動きを見せながらも、「どうせたいして上手くいかないだろう」 といった評価がされがちな状況でした。
その後声優名なども発表されましたが、無名の新人や声優活動がない歌手なども交じり、「どこの馬の骨ともわからない、声優ですらない素人まで寄せ集めた変な企画」 との批判も少なくありませんでした。
しかしその後、読者投票によって μ's と名付けられた グループ は、メンバーそれぞれが誌面やネット、各種メディアなどに登場し活動を活発化。 地道な営業活動やライブなども行い、徐々に認知度を高める一方で、2013年から始まったアニメは大人気に。 結果、2015年の劇場版の大ヒット、紅白歌合戦への出場、翌2016年の東京ドームでの 2DAY の単独ライブ開催など、おたくや同人界隈の 枠 を超え、ある種の社会現象を巻き起こすほどのブームを巻き起こしました。
もともとこのプロジェクト自体は、KADOKAWA、バンダイナムコアーツ、サンライズといったこの世界のビッグネームが集って立ち上げ、バンナムグループを中核に主な制作会社以外にも多数の関連企業が参画する一大プロジェクトでした。 「最初は誰も注目していない寄せ集めの変な企画だった」 というイメージも、大ブレイクした後の半ば伝説化した話でもあるのですが、読者 やファン参加型の企画だったこと、「初期のファンが頑張ってずっと支え続けたからこそ大きく成長し大ブレイクをした」 という部分は間違いなくその通りだったこともあり、ブレイク後に熱烈なファンになった新参にとっては、「先輩ファンの方々の応援のおかげです、ありがとうございます」 との気持ちに偽りはないのでしょう。
どうでもいい話ですが…筆者のパターン
東京ドームでの 「μ's Final LoveLive!」 |
ちなみに筆者は、友人に薦められて観た劇場版の 「ラブライブ!The School Idol Movie」(2015年6月13日公開) からラブライブ!に 転び、その後の紅白出場、東京ドームでの 「μ's Final LoveLive!」 始め、様々な企画や イベント を、リアルタイム で経験させてもらった新参ファンです。
ラブライブ!というコンテンツの存在は以前から知りながら スルー していて、ファンになったのはこんなに遅れてからなのに、ラブライブや μ's のある意味でピークなところはガッツリと楽しませてもらったことに対し、それまで支え続けてきた古参ファンの方々への、ちょっとした申し訳なさはあったりもします (とくに古参でライブのチケットが取れなかった方などには…)。 そうした中ではやっぱり、「支えてくれてありがとう」 というセリフが自然と出てくる感じがします (その後イベントなどで知り合った古参ファンに直に伝えたこともあります)。
筆者は若い頃はブームに乗るのが気恥ずかしいというか、その他大勢になるのが嫌というか、ブームに背を向け 逆張り したり自分の中の流行を追うことばかりしている、ちょっとひねくれたオタクでした。 今はもう友人に薦められたり世間で評価された作品は、よほど自分の守備範囲から離れていない限り躊躇なく飛びつくようにしています。 実際、当たり前と云えばそうなのですが、良作の打率が高いというか、ブームになるような作品は優れたものが多いものです。 しかしそうなると必然的に自分が 「後追いの新参」 になりがちなので、それが例え自己満足や自己陶酔なのだとしても、こうした感謝の気持ちは常に持ち続けたいと思っています。