同人用語の基礎知識

陸軍としては海軍の提案に反対である

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いまだに会議の BGM と提案否決 → 会議終了の画面が頭から離れない…

 「陸軍としては海軍の提案に反対である」 とは、ゲーム に登場するセリフを 元ネタ とする、何かに反対する時に使われがちな ネットスラング のひとつです。 軍事 に関わる 掲示板 などで使われるのはもちろん、軍事とか陸軍とか海軍とかとまったく無関係の話でも、「反対である」 を使うためにこのフレーズがことさらに 書き込ま れることもあります。

 元ネタとなった 作品 は、光栄 (現:コーエーテクモゲームス) が PC-9801をはじめパソコン向けゲームとして発売 (1989年9月) し、その後スーパーファミコン・メガドライブ用としてもリリースされた 「提督の決断」 です。 第二次世界大戦のうち、もっぱら日米の海戦を モチーフ とした戦略シミュレーションゲーム (SLG) で、プレイヤー は日本の連合艦隊司令長官、もしくはアメリカの太平洋艦隊司令長官となり、それぞれの艦隊を率いて自国の 勝利 を目指します。 勝利条件はシナリオによって異なりますが、シナリオクリア後にも継続プレイが可能で、最終的には全ての基地 (48か所) を 攻略 するか、敵艦船を全滅させることでクリアとなります。

 このゲームでは、大きく分けて2つのプレイ パートモード) に別れてプレイを進めます。 ひとつは司令長官が自ら艦隊 (第1艦隊) を率いて出撃した際の移動・攻撃パート (洋上モード)、もうひとつは寄港中のパート (寄港モード) です。 出撃中は4時間に1度自分のターンがやってきて、艦隊が進む方向や速度、艦隊の合流や分離などの指示、敵の索敵などを行い、敵を発見し 戦闘 を始めるか敵に発見され仕掛けられると 戦闘画面 に遷移して HEX戦になります。

 一方の寄港中のパートでは、1日に1回ターンがやってきて、艦隊の編成や補給・修理、新艦の建造、自分以外の出撃艦隊 (操作は委任) への簡単な命令などを行います。 その他、母港 (呉もしくはハワイ) に寄港中の場合のみ、他の各基地への住民に対する軍政や科学技術への投資、外交などが行えます。 ただしこれらのコマンドはプレイヤーが自由に決めることはできず、必ず陸軍との 「会議」 を経て賛成してもらわなければなりません。

 この際にこちらの提案を拒否・却下する陸軍の キャラ のセリフが、すなわち 「陸軍としては海軍の提案に反対である」 であり、このセリフが出るとプレイヤーがやりたいことができずに会議はそのまま終わり、また自分のターンも終わってしまいます (「攻撃・防衛目標基地決定」 は賛成するまで何度もやり直します)。 なお賛成する場合はそのまんまですが、「陸軍としては海軍の提案に賛成である」 です。

せっかく攻め落とした基地が補給が間に合わずすぐに陥落…

 プレイヤーが会議を招集すると

「攻撃・防衛目標基地決定」(次にどこの基地を陥落させるか、どの基地を守るか)
「外交政策」(他国と外交して友好度を高めたり技術供与を受けたり同盟したり破棄することができる)
「基地政策」(住民に兵員や物資を供出させたり友好度を高めるなどの軍政の指示)
「産業育成」(工業力を高める)
「技術開発」(開発 に投資して武器の性能を高めたり新兵器の開発を目指す)
「兵器生産」(航空機やロケット弾、輸送船の生産数)
「宣伝活動」(国民の士気を高める)
「工作員」(敵基地に工作員を送り込む)

などについて、プレイヤーがやりたいことを提案できます。

 このうちとくに 「基地政策」 は重要で、苦労して攻め落とした敵基地と隣接する自軍基地で兵員や物資が不足すると、すぐにまた敵に攻め落とされたりします。 さらに基地周辺の住民友好度が下がると暴動が生じてさらなる ダメージ を食らうことになります。 なので危なくなった基地では兵員や資材を軍政で供出させたり、備蓄燃料を使って食料を配布したり耐久度・武装度と引き換えに待遇の改善を図るなどして友好度を上げなくてはなりません。 SLG でありがちな内政コマンドと同じ扱いですね。 こうした状況で 「反対である」 と却下されるとプレイヤーにとっては 「はあぁぁ?」 だったりします。

 兵員や備蓄燃料の量などはプレイヤーが寄港モード画面から調整できるため、上手くやりくりすれば問題はありませんが、緊急時には間に合わず困ってしまいます。 遠隔地だと届くまで時間がかかり、途中で一部が失われたりしますし。 なので兵員や物資を載せた輸送艦隊を作って送り込むなど、いけずな陸軍がいる会議結果を最初から当てにしない 攻略法 をします。 とはいえそれは面倒だし、あともう少しで新兵器が開発できるのにといったタイミングで技術開発に反対されたり、自分がやりたいようにプレイできないもどかしさがこの 「陸軍との会議システム」 にはありました。

 筆者 もそうですが、このゲームをある程度熱心にプレイした人なら非常に印象に残るゲーム中セリフと云えるかもしれません。 ネット で初めてこの書き込みを見た時は、あの独特な BGM が瞬時に 脳内 に蘇り 「やっぱみんな印象に残ってるんだな…」 としみじみ思ったものです。 ちなみにパソコン用とスーファミ用とでは、セリフの一部や BGM、登場する兵器その他、細かい部分が異なります。 筆者はどちらもやっていますが、やり込んだのはスーファミ版なので、基本その内容になってます (が…記憶違いで混ざってる可能性なきにしもあらず…)。

 ちなみにシリーズ化した後継作 「提督の決断U」 では、カードバトルシステム採用で会議がさらに面倒になってます (笑)。 全体では戦闘が簡略化されプレイ自体は サクサク 進むし兵器の数も増えるしで文字通り 正統続編 といった感じでしたが、BGM といい重厚なプレイ内容と云い、やっぱ初代 (無印) が好きでしたね。

同ゲームを知らない人にも伝わる 「陸軍反対」

 同ゲームは登場艦艇の豊富さ、BGM の素晴らしさ、比較的 難易度 が高くやりがいがあるなど、非常に完成度の高い作品でした。 売れ筋のスーファミ版は高価格帯の1万5千円程度でしたがスマッシュヒットし、以降シリーズ化しています。 セーブデータ保存 エリアが2つしかなかったので、筆者はやり込んだデータの保存用と遊び用に2つ買ったりしました。 艦隊戦や基地攻撃は楽しいですが手動でやると 死ぬ ほど時間がかかり、かといって委任にすると信じられないほど被害が出るので、すぐに時間が溶けるゲームでしたね。 というか、ゲーム開始直後の各提督の ステータス のランダム設定の 厳選 時点で時間が溶けます。

 一方で戦争にまつわる歴史上のあれこれが多数登場することで、中国などから批判や抗議を受けたり、国内でもゲーム雑誌による批判やそれを受けた朝日新聞の論評などにより、何かと物議を醸した作品でもありました。 第三作となる 「提督の決断III」(1996年) は、開発の一部を担っていた中国の子会社スタッフの問題提起を受け、光栄が当局から 「日本の軍国主義を美化するもの」 として罰金刑まで科せられています。

 「陸軍としては海軍の提案に反対である」 が同ゲームを知らない人にまで伝わっているのは、2ちゃんねる の軍事系の板などで度々使われていることもあるのでしょう。 もともと おたく には軍事ネタが大好きな人が少なくありませんし、初見で元ネタを知らなくても何となく意味や ニュアンス が伝わるのも面白いところです。

 また2013年に 「艦隊これくしょん」(艦これ) がおたく・同人 の世界で 覇権 と呼ばれるほどの大ブームとなると、こちらでも頻出する ネタ として扱われるようになっています。 こちらも陸軍艦船や陸軍機が多少出る程度で、陸軍の要素はほとんどありませんが、艦船の 擬人化 によってセリフの形で陸軍ネタがあちこちにあるのも良いのでしょう。 ちなみに同じように別ゲームなのに当てはめられるものに、2002年の 「BattleField1942」(BF1942) のボイスコマンドの日本語吹き替えセリフがあります。 「敵の潜水艦を発見!」 とかですね。

旧日本海軍と陸軍、仲が悪いとはいうものの

 ゲームの 「会議」 システムは、やはり一般に広く伝わる旧日本海軍と陸軍との不仲を、会議と云うシステムでシミュレートしたものなのでしょう。 ゲームが登場した当時は 「陸軍悪玉・海軍善玉」 みたいなイメージがより強い時代でしたし、そもそも海戦を テーマ にしたゲームなのですから、陸軍が邪魔な存在に描かれがちなのは止むを得ない部分もあります。

 とくに陸海不仲については、「陸海内に争い、余力をもって米英と戦う」 と称されるほど日本陸軍・海軍の仲の悪さはつとに知られています。 実際に 戦前 から戦中、あるいは戦後に至ってもことあるごとに組織やそこで働く人たちや元関係者らの争いが生じています。 軍事マニアや ファン にも陸軍ひいき・海軍ひいきが結構いて対立も生じがちです。

 とはいえこれは、日本に限らずどこの国の軍隊でもおおむね同様の傾向が見られるものです。 陸軍と海軍 (あるいは存在すれば空軍) はひとつの国家の中で限られた人員や予算、資源・工業力を奪い合う ライバル ですし (あと規模は違えど警察や消防とかも)、とくに日本の場合は陸軍がフランスやドイツ式の制度を、海軍はイギリス式の制度を採用して各種用語の違いはもちろん、文化や風土ごと異なっていました。 さらに云えば明治維新からの長州藩と薩摩藩の争い (長の陸軍、薩の海軍、おまけに旧幕府の海軍伝習所の流れ) もあって、何かと反目し合う間柄です。

 戦前は日独伊三国同盟やアメリカとの開戦を巡って争いがありましたし (陸海それぞれの内部でも争いがあったり)、陸軍と海軍でわざわざ同じような内容の別々の銃や砲、戦闘機や爆撃機を開発・保有するのはもちろん、海軍なのに陸上航空機や戦車や陸戦隊を持っていたり、陸軍なのに空母や潜水艦を持つ、さらにそれぞれの教育訓練機関や技術廠を持つなど、かなりの無駄もありました。 もちろんそれぞれの軍の戦術用途に最適化する必要がありますから当然ではあるのですが、戦後の行政機関の縦割り行政ともども、もう少し協調性があっても良かったでしょう。 当時の日本の乏しい国力を考えたら、さすがにやっぱり無駄があったと言わざるを得ません。

 もちろんこれは、相対するアメリカでも程度は違えど同様でした。 海軍次官を務め海軍とゆかりが深いフランクリン・ルーズベルト大統領は、遠縁にあたるセオドア・ルーズベルト大統領ともども海軍ひいきであり、海軍を 「我が海軍」 と呼ぶ一方、確執のあった陸軍を 「やつら」 呼びしたり、対日戦では海軍と陸軍とで別ルートでの侵攻作戦を策定し競い合うように実施するなど、別に一枚岩ではありません。 日本の海軍陸戦隊とは似て非なる海兵隊もありましたから、事情はさらに複雑です。 それでも日本に比べて遥かにましだったのは、無駄が生じてもそれをカバーする リアルチート なみの巨大な国力があったこと、そして大統領制という強力なリーダーシップがあったからなのでしょう。

 ちなみにドイツでは陸軍海軍に加え空軍に武装親衛隊まであり末端の現場も上層部でも不仲や争いはより苛烈でしたが、こちらもヒトラー総統やナチスの権力が絶大で、現場はともかく中枢部では意見の統一がそれなりに図られていたようです。 とはいえヒトラーが思いつきの作戦や政策の指導を行うため、こちらはこちらで別方向の無駄がかなりあったようです。 まぁその結果として、善悪は抜きにして 未完補正 がかかりまくりの 「実戦配備されていたら戦局を一変」 させてたかも知れない夢の超兵器が目白押しで、後世の歴史好きやミリタリーファンに ifロマン も与えてくれてはいますけれど。

 また日本特有の問題として、大日本帝国憲法によって定められた統帥権の独立があります。 総理と云えども大本営 (陸軍参謀本部・海軍軍令部) が決定した作戦・指揮の無視はできませんでした。 陸軍省・海軍省とそれぞれの大臣の所掌にある予算や人事なども、陸海軍それぞれの大臣 (現役武官) にせいぜい意見する程度に留まります。 総理の意に沿わない大臣を罷免したり方針の無理強いにより大臣が辞職しても、次の大臣の指名もできません。 それぞれの軍が次の大臣が出されなければ内閣は倒れてしまいます。 要するに、制度や仕組みがもうどうしようもない状態だったと云えます。

 戦争には負の側面の他、科学技術の振興とか経済的利益、異文化とのつながりなど、人類に対する貢献もないではありません。 しかしそれは、戦争によって失われる数多くの人命や無数の 人権 に対する蹂躙、貴重な文化財の破壊や喪失らに比べたら小さなものです。 人類の歴史はおおむね戦争の歴史と同義ですが、それだからこそ戦争は多くの人にとって避けるべきものと認識されています。 とはいえ、過去の戦争から何も学ばないのでは、その時代に生きた人たちに申し訳がないでしょう。 日本も戦後は憲法が変わり、旧日本軍も自衛隊になりました。 セクショナリズムに陥らず、また何より平和を守るためにこれまでの歩みと同様に頑張ってほしいものです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2005年11月18日/ 項目を分離しました)
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