報道ではなく、まるで活動家によるプロパガンダ 「支持率下げてやる」
「支持率下げてやる」 とは、特定の政治家や政治勢力に対して 「お前たちの ネガティブ な情報を揚げて評判を落としてやる、国民からの支持を落としてやる」 というそのまんまの意味の言葉です。 それ自体はごく普通の日本語表現ですが、2025年11月7日の自民党の総裁選出にまつわる報道の中で、記者会見場に集まる報道陣の誰かによる音声が ネット に流れたことから、一躍流行語のような形で広まることとなりました。 大手メディアによる恣意的な世論誘導や偏向報道、特定の政治家に対する ネガキャン の存在を明確に示す根拠のひとつと 認知 されているようです。
問題の発生源となったのは、同月4日の総裁選を終え新総裁となった高市早苗さんを取材しようと報道陣・記者団が詰めかける自民党本部の4階ロビーを 生配信 していた日本テレビの 動画、「【ノーカット】自民党 高市総裁 コメント 公明党幹部との会談をおえて ── 政治ニュースライブ(日テレNEWS LIVE)」(動画サイト Youtube の日テレNEWS チャンネル、および同社 サイト)でした。
この 配信 では、自民党が連立を組む公明党執行部との会談を終えた高市さんの コメント を記者会見として放映する予定でした。 予定より早く始まった配信では、高市さんが現れて会見が始まるまで延々とロビー壁面の映像と音声をノーカットで流していましたが、その間ずっと、内容が聞き取れない 雑談 らしき雑多な音声や物音などが流れていました。 大勢の 視聴者 らも報道陣同様に動画を再生しながら高市さんの登場を待っていたわけですが、配信開始から43分ほど経過した頃、男性の声である程度内容を聞き取れる会話が偶然流れ、その発言に注目が集まることに。
内容は 「支持率下げてやる」「支持率が下がるような写真しか出さねーぞ」 といった、会見前から高市さんのイメージを悪くし、国民からの支持が下がるような世論誘導を試みる偏向報道の意志を強く感じさせるもので、視聴者らの間でも話題に。 他にも会見での質問の打合せとみられる 「裏金と靖国なんかでしょ」「靖国は譲れません」 や、高市さん当選の立て役者に麻生元総理がいたことを踏まえて 「イヤホンつけて麻生さんから指示聞いたりして」 などと揶揄する声、それに対する周囲の笑い声や相づちのような声もありました。
X など SNS で切り取り動画が一気に拡散、炎上騒ぎに
このシーンはすぐに字幕つきの 切り抜き動画 として X をはじめ SNS で 拡散 され、翌8日にはトレンド入りするなど大騒ぎに。 元々ネットではマスコミ批判が強かった上に高市さん支持者も多かったこともあり、「さすがオールドメディア」「まさに マスゴミ」「これでは報道人ではなく活動家ではないか」 などの反発を招く結果となってしまいました。
その後ネットニュース、その他の報道にも飛び火。 動画を配信していた日本テレビはデイリースポーツの取材に対して 「ご指摘の音声につきましては弊社の関係者による発言ではございません」 と答えたものの、生配信のアーカイブ動画は当日深夜に当該部分の音声をカットする形で22分間程度に切り詰められ、観ることができなくなってしまいました (これ自体は リアルタイム の報道配信のアーカイブではしばしば行われるもので、日テレ側も 「通常行っている作業」 と述べており、隠蔽を意図したものかどうかは不明です)。
ネットでは報道陣の姿が映った別アングルの映像などがあちこちの動画や報道記事から寄せ集められ、「犯人捜し」「特定」 が始まりました。 当日 現場 にいたのは原則として記者クラブ (平河クラブ) 加盟の58報道機関 (新聞社・通信社・テレビ・ラジオ) のみで、「支持率が下がるような写真」 という部分から、映像を扱うテレビ局の記者やクルーではなく新聞社や通信社の スチル を撮影する記者やカメラマンだと予想され、その部分の追及も始まっています。
週刊誌やフリーランスの記者やカメラマンであれば法的にも、あるいは倫理的にも問題はないのかもしれませんが、同記者クラブには含まれておらず、新聞社や通信社らの場合は法的な優遇措置などもあって公の性格が強いため、建前の上でも不偏不党や公正中立を標榜する資格がない態度と云わざるを得ません。
9日になり、時事通信社が当社社員だとして謝罪
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| その後謝罪記事が当該通信社から出ることに 「本社カメラマンを厳重注意「支持率下げてやる」発言 ―時事通信社 (2025年10月9日) |
その後9日になり、時事通信社が映像センター写真部所属の男性カメラマンの発言であることを確認し、本人へは厳重注意を行い、また自民党関係者らに謝罪する意向であることを発表しました。 また問題の発言は会談が長引き記者会見が遅れて待たされたことで生じた仲間内での憎まれ口的な冗談ではあったものの、報道機関としての中立性、公正性が疑われる行為であったとして同社サイトで謝罪しています。
なお高市さんは安倍晋三元総理の愛弟子や後継者とも目され、保守的、あるいは右向きとされる政治姿勢もあって、とくに左側・リベラルとされる政治家や勢力、大手メディアからは強い批判を長年浴び続けた政治家でもあります。
とくに今回の総裁選は、自民党が惨敗した直近の国政選挙 (7月20日/ 第27回参院選) において経済問題、とりわけ物価高や減税問題に加えて外国人問題や外交・国防問題が大きな争点となったこともあり、この外国人労働者 (移民) や靖国神社参拝について厳しい態度を取る公明党との連立のありようが注目を集めていたという背景もあります。 この他、メディアが主導してきた安倍さん時代の政治資金の裏金問題や選択的夫婦別姓制度に関する話題も含め、一部のメディアからは折に触れ目の敵にされる存在でした。
まぁ実際のところ、メディアごとの立場や姿勢の違いによって、記事内容に大きな偏りがあったり報道写真で悪人顔に写ったものをわざと選ぶなどといったイメージ操作や偏向があるのは、ある程度まともな リテラシー の持ち主なら周知のことではあります。 またこの発言自体は私怨や 思想が強い というよりも悪ノリが過ぎた幼稚な軽口だと思われ、ひと昔前の 露悪的 な バイトテロ と同じ程度の話でしょう。
しかし例え冗談だったとしても、こうあからさまな報道に対するバイアス言質が報道事故のような形で実際に出てくると、正直なかなかキツイものがあると云えます。 周囲の報道陣もそれに ノって 笑っていますし。 薄々わかっちゃいたけれど、やっぱりそうだったのね、みたいな感じもするし、しかもこうなると、メディアが発表する内閣や政党の支持率調査にも疑義が生じてしまうよね、みたいな。
史上初の女性総理が確実視される中、様々な波紋を呼ぶ高市新総裁
高市さんは自民党初の女性総裁であり、かつ騒動が生じた時点では日本の憲政史上初の女性総理に選出される可能性が極めて高い人物です。 世間の関心やニュースバリューが高いだけでなく、教科書に載る レベル の重要な歴史的出来事であり、もし首班指名で選出されれば、どのような立場から見るにせよ時代の画期となる快挙であることに疑いはありません。
女性の社会進出が叫ばれる中、出羽守 がしばしば持ち上げる欧米先進国、例えばG7では6番目の女性首脳誕生でもあり、やっとここまで来たかという感慨を持つ人も少なくないでしょう (G7で残るのはアメリカのみ、またフランスなど大統領制の国における総理と日本やイギリス、ドイツらのそれとでは意味や重みが異なります)。
一方、女性問題を巡る論争は SNS では 可燃性 の高いホットな話題として扱われており、当然この 「支持率下げてやる」 騒動もその カテゴリ で盛んに触れられます。 とくに左派やリベラルと親和性の高いフェミニストと呼ばれる人たちがこの騒動にどう反応するか、高市さんを支持するしないに関係なく好奇の目が集まるものだった点も騒動を大きくしたと云えます。 しかしこれまで女性政治家や閣僚、まして女性総理がいないことに対し、ジェンダーギャップ指数を取り上げて批判してきたいわゆるファミニストと呼ばれる人たちの間から、男性カメラマンが発したこの発言に対していつもの 「女性差別だ」「ミソジニー (女性嫌悪) だ」 という目立った声は出ていません。
それどころか総裁選前後からほとんどの自称フェミニストとされる人たちは高市さんに否定的な報道を シェア し、執拗に罵倒し続けています。 選出後はさらにヒートアップし、女性学やフェミニズムの日本における第一人者である元東大名誉教授の上野千鶴子さんは、「うれしくない」「ジェンダーギャップ指数で日本のランキングが上がるだろう。だからといって女性に優しい政治になるわけではない」 と自身の X で延べ、ジェンダーギャップ指数の順位など意味がないと言外に主張しています (10月5日)。
また社民党の福島瑞穂党首も総裁選出後に X を始め記者会見やテレビ番組などで繰り返し 「全くうれしくない」「女性なら誰でもいいわけではない一番のケース」「(立憲民主党の) 野田政権の方が1万倍いい」「男性原理そのものでやるんだったら、女性であることの意味もない」 とまで述べ、高市さんの首相選出を阻止していく考えを強調しています。 19日放映のテレビ番組では、女性学研究者の田嶋陽子さんが 「女性で初めて総理になりましたというと、もしこれが他の国の情報だったら、ああよかったねと手を叩くと思う」 と実際に手を叩きながら述べた上で 「中身がただ女であればいいってもんじゃないんだよ」 と批判しています。
もちろん 「女性なら誰でも良い」 は、それはそれでおかしな話ですから、政治家として主義主張が異なるなら 「是々非々だ」「歓迎しない」 でも問題はないでしょう。 個人の好き嫌いの 感想 なら、単に 「気に入らない」 でも別に構いません。 これまでの歴代総裁や総理も男性だから選ばれたわけではないし、高市さんもことさらに女性としての自分を売り込んできたわけではありませんし、支持者もそこだけで 推して いるわけではないでしょう。 しかし政治信条や政策、実力や人となりで判断するというのなら、そもそも性別で分けて数だけで多い少ないと他国と比べる必要や意味もないはずですし、組閣や選挙のたびに外国と比べて女性閣僚が少ないとか議員が少ないと批判する理由もないでしょう。
性別のみで公平平等な競争の外に優遇される 枠 を設けようとする女性枠や女子枠、一定数を割り当てるクオーター制などのアファーマティブ・アクション (積極的差別是正措置) を 「結果の平等」 のために支持していた論は何だったんだと感じる人がいてもおかしくはないでしょう。 あげく 「高市さんは女性らしくない」「考え方が古い男性と同じ」「名誉男性だ」 に至っては、いくら主義主張が違うと云えどもただの 人格攻撃 で何をかいわんやです。
高市さんは庶民層から苦学して叩き上げた人物で、1985年に施行された男女雇用機会均等法と同じ年に大学を卒業すると松下政経塾に入り、2006年に初入閣、男女共同参画や技術振興などに取り組み、安倍政権時代 (2016年) には2025年度までの10年間を一区切りの目標として施行された女性活躍推進法にも力を入れています。 方向性は結果平等ではなく機会平等で、これは昔から変わりません。 現在日本には政治や職業における制度的な差別はありませんし (あれば違法です)、今回の総裁選出はこれら日本女性の社会進出や男女同権のための長年の取り組みの、ある意味集大成といった観もあります。 公平な選挙制度の元で議員に当選し、規約通りの党内選挙で総裁に選出されており、「女性だから」 で差別されたり優遇された結果ではありません。
政治信条が違うのに歓迎したら 「女性なら誰でもいい」 を認めることになるし、反対すれば 「状況改善のため平等公平な競争を曲げてでも結果の平等を目指す」 に反してしまう。 これまでジェンダーギャップ指数を金科玉条のように扱ってきた姿勢の是非や女性らしさを性役割の固定と非難していたことへの整合性を含め、要するに元々の論が矛盾しているから、いざ自分たちが推進している通りのことが起こると 認知的不協和 が拡大して混乱し ブーメラン が 刺さる 結果となるのでしょう。 蛇足ながら前年7月7日の東京都知事選では、当選した女性の小池百合子候補への選挙演説中の妨害行為や罵倒は無視あるいは肯定し、同じ女性の蓮舫さん落選は女性差別だミソジニー (女性嫌悪) の結果だと主張していたことなども合わせ、その矛盾や ダブスタ にも改めて疑問が浮かびます。
筆者 は高市さんの掲げる政策に 同意 できる部分が少なくないとはいえ、表現規制にまつわる過去のもろもろもあってある程度の距離を置いていますが、女性が活躍することには大賛成だし、初の女性総理誕生となればその大きな第一歩、突破口にもなると歓迎する立場です。 なのでそれまで女性の社会進出をあれだけ主張していた人たちがこぞって反対の声を上げることに強い不信感を抱いています (まぁたぶんこうなるだろうとは、みんな予想していたとは思いますが)。
総理 (あるいは政治家) は日本国民や有権者全ての代表であるべきで、女性だからといって女性らしい政策ばかりを望むこと自体が誤りです。 それでは男性は男性向け政策をせよとなり、古くさいジェンダーロール (性役割) の再生産になるだけであって、女性議員は女性や子供、教育や 環境 の問題だけやっていれば良いみたいなひと昔前の風潮と変わりません。 そもそも国民の人数も有権者の数も女性の方が多いのに女性議員がこれほど少ないのは、社会的な女性の立場だけでなく、こうした女性議員の活躍すべき分野が狭く見られ、男性ばかりでなく多くの女性が女性候補に投票していないからに外なりません。
とまれいずれにせよ、ニュースバリューのある事実上の新総理を巡る騒動であること、ネットの反マスコミ・反自称フェミニズムの感情にマッチする話題だったこともあり、一連の流れが極めて大きな騒動へと拡大することになったのでした。
10月21日、ついに史上初の女性総理誕生
総裁選後に政権の枠組みが変わるなど紆余曲折がありましたが、10月21日に衆参両院の首相指名選挙を経て高市さんが第104代内閣総理大臣に指名され、ついに日本初の女性総理となりました。 期待された女性閣僚は2人に留まりましたが、財務大臣に片山さつき議員、他に自らをフィクトロマンティック (架空のキャラのみ 愛する 性的少数者) と公言し、マンガ や アニメ、ゲーム といった創作物の表現規制問題で反対の立場を鮮明にしている小野田紀美議員が初入閣し、期せずして総理・財務大臣・首都の知事が女性という、ほんの少し前まではありえないようなすごい状況になっています。
別に能力があって結果さえ出してくれれば性別や年齢や出自などどうでも良いですし、高市さんが支持されている理由に女性だからは大きくないと思いますが、高市さんも携わっていた女性活躍推進法の目標年度がまさに2025年度であり、そこにはやっぱりドラマも感じてしまいますね。 個人的には前任の石破さんが、政治的姿勢や実績以前に大きな選挙で3回も連続で大敗したのに総理の座に居座っていたことには反対の立場なので (民意、ひいては民主主義に対して大きな禍根を残す人物だったと思っています)、やっと新しい人になってくれたという気分が強いです。
創作物規制についての懸念では、児ポ法 や 青環法、人権擁護法 などが騒がれていた頃と現在とではすっかり政治的な勢力図や景色が様変わりし、今では野党与党のポジションがかなり変わってしまいました。 これらの法案を与党内で強力に推進していた連立相手の公明党は離脱しましたし、小野田議員や実質的な表現規制反対のワンイシューで当選した山田太郎議員や赤松健議員ら規制反対派議員らの参加や積極的な活動などにより、いますぐどうこうといった状況にはありません。 そもそもここ数年で日本のマンガやアニメは海外での存在感を増し、市場規模も急拡大して半導体や鉄鋼業を超える主要な輸出産業 (基幹産業) のひとつに位置づけられていて、「表現内容をグローバル基準に合わせろ」 などという噴飯もののトンチンカンな主張も説得力を失っています。
先のことはわかりませんが、表現の自由さや多様性を守りつつ、まずは日本のために頑張って欲しいですね。 とくにこれから社会に出る若い世代は、失われた30年と物価高、加えて2020年からの新型コロナ感染症の影響による不自由な青春時代を過ごした世代でもあり、日本の未来に明るさを見出すことが難しくなっています。 参政権のうち投票権が18歳に改まったこともあり、政治への関心も高まっています。 そんな若者の希望をつなぐ政策を期待したいです。
世論調査では極めて高い支持率を得て、国民からの期待の高さが伺える
なお読売新聞社が21日〜22日に行った緊急全国世論調査によると、高市内閣の支持率は71% (直前の石破内閣は34%)、男女別支持率では男性71%、女性72%で、とくに18歳〜39歳までの若年層の支持率は石破政権の15%から80%へと驚異的な増加となっています。 各社の調査でもおおむね60%を超えており (最高は日経新聞の74% (10月26日)、最低は時事通信社の43% (総裁選出前の10月10日〜13日)、内閣発足時支持率としては読売で歴代5位、日経で2位につける極めて高い水準となっています。 一般に世論調査は調査に協力的な高齢者からの支持が有利に働くため、実際はもう少し高いとの見方もあります。 なお共同通信社の調査では、日本初の女性首相誕生が女性活躍の後押しになると歓迎する意見は76.5%に達しています。
政権発足のご祝儀という部分 (いわゆるハネムーン期間) もあるし、過去の高支持率内閣が必ずしも順風満帆の政権運営ができなかったことも併せて考える必要がありますが、少なくともこの時点では大きな期待や好感触を得ているのは間違いありません。 ちなみにリベラル寄りの毎日新聞は65%、朝日新聞は68%、一方、テレビ朝日は58.7%、「支持率を下げてやる」 の時事通信社は、定期的な世論調査のみで緊急の世論調査を行わず、内閣発足後の数字も出していません。 これほどのニュースバリューがある政権発足で、いつもならやるであろう緊急調査を行わないことに何らかの意図があるのではと訝しく思う人もいるようです。
まぁそれはそれとしてちょっとくだけた話をすると、憲政史上初の女性総理ともなれば何十年後かに高市さんが歴史上の人物枠に入った後は大河や朝ドラや何らかの 一代記 ドラマ・映画の題材にはなったりしそうです。 今後の仕事ぶりに左右されるのでしょうが、総理には主人公補正がかかるでしょうし、作中で憎々しい ライバル や悪役は誰になるのかとか考えると面白かったりします。
政治家の仕事は後世に残り歴史の審判を受けますが、それと同時にドラマなど娯楽のための コンテンツ としても消費され、庶民の下世話な評価の対象にもなるものです。 政治が社会もたらす結果に対してあまりに枝葉末節な話ではありますが、自分がもし政治の場にいたとしたら、何十年後かにそのドラマを見ている視聴者から嘲笑されたり罵声を浴びせられるような行動はしたくないし、することもないでしょう。 思想信条が異なっていても認めるところは認められるよきライバルとして、主人公を食うような堂々とした振る舞いを野党やメディア記者には期待したいと思います。
注目の所信表明演説は、野次で大荒れ
同月24日の国会では、首相として所信表明演説を行いました。 約30分間に渡って持論の経済対策や物価高対策、外交や安全保障、取り組む決意などについて語りましたが、登壇する前から大声で野次 (ヤジ/ 不規則発言) が飛び、演説中も最初から最後まで延々と同じような内容の野次を繰り返し飛ばしまくる議員がいてちょっと酷かったですね。 しかもそれが結構な大きさでマイクに拾われていて演説内容がまともに聞けなくなっており、演説や国会中継、政見放送などをいつも好んで見ていて慣れている筆者も、今回はかなりがっかりしました (その後の参議院はめっちゃ聞き取りやすかった)。
演説の野次は昔から議会の華とも呼ばれるし、首相に対する最初の洗礼というか儀式みたいなもので、慣習的に長年続けられているものです (同様の議会運営はイギリス議会にも見られますし、民主主義国家ならどこでも多かれ少なかれ見られるものです)。 若手議員が担う議事進行係の 「議長ーーーー」「望みまーーーーす」(まだマイクなどがなかった1894年から) と同様、時代がかった虚礼ではありますが、それはそれで一つの伝統でもあります。
登壇者の仲間からの賛同の拍手や声援同様、要所要所での演説内容や時世を踏まえての的確な ツッコミ は議会の 雰囲気 を示すものでもあるので、ある程度は大目に見て良いと思います。 ヤジるタイミングも演説の区切りとか登壇者がひと呼吸置いたタイミングなどを見計らって一声上げるみたいな形のものが多かったりもしますし、時にタイミングが上手く ハマっ たり笑える ネタ として人気になったような野次もあります (例えば民主党政権時の2010年5月21日の参院本会議における、当時の鳩山首相に対する野党自民党議員による ルーピー とか)。 またマイクが演説者の声だけでなく野次を拾うのも、そうした部分での意義がちゃんと意識された行為と云えます。 そもそも時の最高権力者の演説をただ拝聴して拍手するだけでは、まるでどこかの独裁国家と同じです。 自由のある民主主義国家の議会には馴染みません。
しかし今回のようにただひたすらに延々と同じ罵声や暴言を浴びせかけ、演説の一部が聞きづらくなるほど続けるのでは、野次というより単なる妨害です。 いくら自由の国でも最低限の礼節は必要だし、さすがに限度もあるということなのでしょう (これは今回に限らず過去の所信表明演説での野次もそうですけれど)。 あと野次と直接的な関係はないけれど、マイクの音質調整も今回は良くなかった (とくに日テレは酷かった)。 元々あまり音響の良い場ではないけれど、どこのチャンネルでも音が 水中 のようにこもっていて、ライブではほんとに聞き取りづらかったです (うちではニコ動が一番自然に聞こえました)。
なお今回とくに執拗に野次を飛ばしていて目立ったのは、立憲民主党一年生議員の水沼秀幸議員と岡田悟議員でした。 国会の議席の位置は原則として当選回数が少ない議員ほど演壇に近い前の方になるため、野次は昔から新人議員の 「お役目」 ではありますが、左右の位置は演壇から見て右から順に議席の多い政党となるため、過半数割れとなった自民は右手に偏り、真正面に立憲が来たことでいっそう声が響いて酷くなってしまったのでしょう (おまけに水沼議員の声が甲高くよく通る声質だったし)。 おかげで与党側から野次をもう少し抑えるようたしなめる声が上がったり、総理が途中で演説を途切れさせたり、野次に負けじと声を張り上げてさらに聞きづらくなってました。
注目の演説でリアルタイムでの視聴 (同接) が多かったこと、あまりに野次が酷かったことから SNS では炎上状態となり、野次の犯人とされた議員それぞれの X の アカウント には苦情が殺到 (とくに目立った水沼議員のポストには 「うるさい」「国民の聞く (知る) 権利をどうしてくれる」 など1万件ほどの苦情 リプ がつき、その後削除) しています。 合わせて彼らの過去実績のなさや岡田議員が委員会の議事中に居眠りしている 画像 なども サルベージ されて 拡散 される、さらに立憲や社民の議員らが野次を擁護するなどもあって反論も生じ、大騒動になってしまいました。
これは高支持率で楽しみに見ている人が多かったこと、とくに若年層の支持が圧倒的なため、初めて所信表明演説を見たという若者も多くて、より一層の野次への違和感を持たれた結果もあるかもしれません。 繰り返しになりますが、議会での野次は適切なものであればあって当然のものです。 また過去の所信表明演説に野次を飛ばしていた党や議員がことさらに今回の野次を問題視するのもダブスタ・言行不一致 だと思いますが (まぁ野次を飛ばす、飛ばされた方は抗議する、という一連の流れもまたある種の儀式ではありますが)、しかし度が過ぎたり、少なくともそれが有権者である視聴者らの目にどう映るのかは、想像力を働かせて少し考えた方が良いのかも知れません。 昨今は選挙戦中の街頭演説でも汚い言葉での野次というより妨害行為が横行していて、目障りだし逆効果に思えます。









